鈴木れな
物心ついたときから生粋のオタク人生を歩んでウン十年。最近の沼はアジアBLドラマ。 2次元から3次元までいろんなモノ・コトを推してます!
──「看見愛」は聴覚障害を扱っている点が大きなポイントだと思います。聴覚障害を描こうと思ったきっかけは?
アニタ・ソン(宋鎵琳):
2年前くらいかな。珮瑜と2人で話していて、障害がある人を取り上げるのはどうかというアイデアが出たんです。
珮瑜自身も右耳が聞こえないこと、また本作の監督の一人、ジアン・ビンチェン(姜秉辰)にも聴覚障害がある伯父がいて、本作の制作のきっかけになりました。
リン・ペイユー(林珮瑜):
BLドラマではありますが、恋愛だけではないそれ以外のテーマも伝えたいと私達は考えています。そこで時間をかけて話し合い、本作のストーリーが作られました。
私たちが常に念頭に置いているのは、「愛があればどんな障害も超えられる」ということです。障害と言っても肉体的なものから社会的、精神的なものまで様々です。
今回聴力障害について調べていく中で、「聴こえない」ことを障害とするのではなく、手話を一つの言語と見立て「通じ合えない」障害を乗り越えていくという部分を描きたいと思いました。
アニタ・ソン(宋鎵琳):
私たちが制作するBLドラマもそうですが、性別という障害、家族の障害、社会の障害、様々な障害を乗り越えるというストーリーは素晴らしいと思います。大好きな日本のドラマ『愛していると言ってくれ』や、珮瑜が脚本を担当したドラマ『幸せが聴こえる』もストーリーがとても面白いと感じました。(※)
聴こえない、見えないという要素があるからこそ、余計に登場人物はコミュニケーションを重ねる必要がある。そういった部分が話に深みを与えるのではないかなと。
※『愛していると言ってくれ』…1995年に放送された日本のテレビドラマ。聴覚障害者の画家と女優の卵が障害を乗り越えながら愛を深めるラブストーリー。2020年に再放送、2023年には韓国でリメイクされるなど、今でも評価の高い作品。
※『幸せが聴こえる』…(原題:聽見幸福)2015年に放送された台湾のテレビドラマ。事故で婚約者を失い、視覚障害を負ったファン・ジャンチェンとその下でヘルパーとして働くことになったチェン・ユーシーとのラブロマンスが描かれる。
──本作とバリアフリー演劇とのコラボについてもお話を伺いたいです。
アニタ・ソン(宋鎵琳):
制作にあたって聴力障害について調べていたのですが、その協力者に台湾の公共テレビの手話アナウンサーの方がいて。彼から聞いたエピソードを本作のストーリーにも取り入れています。
彼はこちらの唇の動きが読み取れるので、コミュニケーションにも支障がないんですね。
そこで彼に「台湾で何が一番不便ですか?」と尋ねたら、「舞台が観たい」と。一部の国では字幕付きの公演もありますが、台湾ではまだそれがない。
ちょうど友人が劇団をやっていたので、コラボしてみたら面白いのではと思いました。コラボの舞台(※)については、本作にも7話で少しだけ登場しているんですよ。
※…台湾の著名な劇団「曉劇場」とコラボを実現し、バリアフリー演劇「魚.貓」が今年10月に上演された。
──本作のキャスティングについてはいかがですか?
アニタ・ソン(宋鎵琳):
実は金雲も林宇も前作『奇蹟』のオーディションに参加していたんです。それから1年後、再び本作のオーディションで金雲が見せてくれた演技が素晴らしくて。思わず拍手を贈ったくらいだったんです。その場に居たプロデューサーたちもみんな「この一年何があったの?」と驚くほどでした。
彼はその時、楊子翔役で受けていたんです。その後、姜紹朋を演じてもらった時もすごく手話がキレイで感動しました。
リン・ペイユー(林珮瑜):
オーディションで金雲はどちらの役も上手く演じていました。
その時インスピレーションを感じたんですね。そもそも本作は、役柄を逆で考えていたんです。聴覚障害のあるキャラクターが愛される側でストーリーを描いていました。
でも金雲は背が高くて明るい印象があります。だから、逆にしてみたらよいのではないかと。聞こえるけれど心の弱さを抱えている人物、聞こえないけれども心の強い人物、というギャップを描いてみたいと思いました。
アニタ・ソン(宋鎵琳):
もう当時は結構ケンカしましたよ(笑)。
私は林宇がかっこいい御曹司のイメージにぴったりだと考えていて。
金雲と林宇、二人ともキャスティングしたい、でもそうすると受けがいないじゃない!って(笑)。
もう一度2人を呼んで確認した時に、攻めと受けを逆転すればいいのでは?となり……、
リン・ペイユー(林珮瑜):
結局全部の脚本を書き直すことになりました(笑)。
撮影の2,3ヶ月前頃でしたね。
スポンサーもスタッフも、脚本にもう少し時間をかけたいという要望を叶えてくれてすごく感謝しています。
──林宇さんについてはいかがですか?
アニタ・ソン(宋鎵琳):
彼の第一印象は、すごく顔のキレイな男の子だな、と。とてもカッコいいけれどクールではなく、なんだか柔らかい感じを受けました。その柔らかさは、彼が人に対して細やかに気を使える気質だからこそ、かな。そういった繊細な部分が楊子翔と合うなと思いました。
……とはいっても、彼は姜紹朋役で受けていたのですが(笑)。
リン・ペイユー(林珮瑜):
再度脚本を書き直すにあたり、金雲と林宇が演じやすいようにそれぞれキャラクターも調整しました。当初予定していた姜紹朋と楊子翔に、金雲と林宇の要素が加わって、『看見愛』の姜紹朋と楊子翔になっていますね。
──サブCPを演じる、林家佑さんと林詠傑さんについては?
アニタ・ソン(宋鎵琳):
林家佑は、以前『Be Loved in House 約・定~I Do』に出演して、すごく素敵な俳優だなと。いつか彼をメインにしたドラマを作ってみたいなと思っていました。『奇蹟』の時も彼は最終選考まで残っていたのですが、上手くハマる役がなくて。
今回、彼の出演が決まったのはクランクインギリギリの頃だったのですが、彼のメガネ姿を見た途端「これだ!」と思いました。ドSっぽさが半端ない(笑)。もう運命ですね。
リン・ペイユー(林珮瑜):
林詠傑は、彼の純朴さが王信家にぴったりだなと思いました。田舎から出てきて、本当は気が小さいくせにわざと悪ぶってる感じ。彼のピュアな部分が、信家にすごく生かされているなと思います。
──林詠傑さんはドラマの撮影に慣れていなくて苦労したと仰っていましたが、その辺りはいかがでしたか?
アニタ・ソン(宋鎵琳):
彼は舞台中心に活動していたので演技は問題ないのですが、撮影はほぼ初めてだったんですね。やはりカメラがある分、ちょっと角度が違ったり、動線がズレたりするとNGになってしまいますから。
最初は撮影に時間がかかりましたが、後は家佑のサポートもあって順調に進みました。
ただ、撮影の時は家佑がサポートしてくれていることに私は全く気づいてなかったんですよ(笑)。あとから聞いて驚きましたし、感謝しています。
リン・ペイユー(林珮瑜):
ドSで腹黒な秘書ですが、心は温かいんです(笑)。
──本作の制作で印象に残ったこと、苦労したことは?
アニタ・ソン(宋鎵琳):
今回、初めて映像監督を務めたことは大変勉強になりました。
本作では手話の演技がありますし、主演の二人はほぼ新人です。
金雲には手話を覚えてもらわないとならないし、林宇は金雲が話せない分だけセリフが増えることになります。だから撮影に入る前からとにかく時間をかけて彼らと一緒に練習しましたね。
二人の大事なシーンは舞台のように何度も何度も稽古をしたり。
本作では、いろいろなコミュニケーションの方法が出てきます。
手話だったり、携帯だったり、タブレットだったり、そしてもちろん口話もあります。
どうやってコミュニケーションするか、このシーンはどうやって作るか、みんなで話し合い、作り上げていきました。
リン・ペイユー(林珮瑜):
私にとっても2人の監督と一緒に制作することは初めての経験でした。映像制作に長けた姜秉辰監督、感情表現に長けた宋鎵琳監督と、2人の得意分野が上手く組み合わさったと思います。
私も舞台演出をやっているので、本作がまるで舞台制作かのように、みんなが一体となって演技を作り上げていけたことはとても幸せです。
アニタ・ソン(宋鎵琳):
撮影が始まって最初に苦労したのは、実は“スマホ”なんです。セリフを音声入力で画面に表示させなきゃいけないのに、上手く出てこない!って(笑)。
スタッフの声が入ってしまったり、予期せぬ画面になってしまったりね。最後はAIがちゃんと学習してくれて、完璧に音声入力ができるようになりましたが。
──BLドラマの制作は、最新のテクノロジーも使いこなせないとならないわけですね(笑)。
そもそも宋鎵琳さんが本作で監督を務められたきっかけは何だったのでしょうか?
アニタ・ソン(宋鎵琳):
これまでプロデューサーとして作品に携わる中でも、演出には関わっていました。例えばこれまでの全作品のベッドシーンの演出は私が担当しています。
編集する時に、「ああ、あの時撮っておけばよかった」という後悔を少しでも減らしたくて、それなら自分がやればいいのではないかと。
学生時代は舞台演出を専攻していましたし、俳優たちと一緒に作品を作り上げていくことがすごく好きなんです。
──林珮瑜さんは『奇蹟』に続き脚本とプロデューサーを兼任されています。プロデューサーを務められるようになって何か変化はありましたか?
リン・ペイユー(林珮瑜):
一番大きな変化は、予算を考えるようになったことですね(笑)。
脚本だけを担当していたときには、予算は関係ないですから。もう自由。
なんだってアリです(笑)。
でもプロデューサーになると、制作の予算が見えてきます。ですから実現可能かどうかを脚本段階で考えるようになりましたね。とはいえ、制約がある中でも最大限よいものを目指していく部分は変わりません。
──宋鎵琳さん、林珮瑜さんのタッグは『隔離が終わったら会いませんか』『奇蹟』に続き三作目となります。これまで制作を続けてきて、BL作品に対する思いや環境の変化など感じたことはありますか?
アニタ・ソン(宋鎵琳):
やはり、多数の作品が出てきて競争が激しくなった実感はありますね。その分プレッシャーも感じます。
リン・ペイユー(林珮瑜):
たくさんの作品が制作されているので、もっと面白いテーマやストーリーを作らなくてはと思っています。アフターコロナという観点では、オフラインのイベントをどうするかも一つの課題だと感じています。やはりファンが求めている部分だと思いますし。
アニタ・ソン(宋鎵琳):
やはり『隔離が終わったら会いませんか』や『正負之間~Plus & Minus』の時期は、コロナ禍での制約がありました。『奇蹟』でようやく初めて、これまでの日常に戻れた、一般の制作と同じようにやれた、という実感があったんです。
そして今回、『看見愛』で私が強く感じたのは、結局ファンがかけられるお金はコロナに関係なく同じだということ。
外出の機会が増えてくれば、その分コンテンツにかける金額も減っていくでしょう?
それにいろいろな国のBL作品が増えて、観るものが多すぎる現状もあります。さらにBLだけでなくGLというジャンルも増えてきています。そういった中でオフラインイベントの面白さがとても大事になってくると思っています。
──確かにオフラインイベントの数も増えましたし、規模も拡大している傾向にありますね。チケット代も決して安くはありませんし。
リン・ペイユー(林珮瑜):
イベントも増えて競争が激しくなってきているので、もしかしたらこの先チケット代は落ち着いてくるのかもしれませんね(笑)。
──そうなると嬉しいです(笑)。
──『奇蹟』に出演されたナット・チェン(陳柏文)さんは、『看見愛』では楊子翔の従兄弟・楊子誠を演じています。ほかにも「正負之間~Plus&Minus」に出演されたマット・リー(李見騰)さんなど、これまでのキャストによるゲスト出演も、ファンにとっては嬉しいサプライズですね。
アニタ・ソン(宋鎵琳):
これまでの作品に出演したキャストを登場させるのは、ひとえに彼らのまた別の姿を見たいからです。
リン・ペイユー(林珮瑜):
『奇蹟』でナットが演じたチェン・イー(陳毅)は、なかなかアイ・ディー(艾迪)の気持ちにも気づかない少し天然ぽさのある不良少年でした。今回は、彼の冷徹でサディステックな一面を見たいとこの役を入れました。
──この先の展開も楽しみです。
アニタ・ソン(宋鎵琳):
まだまだ言えないこともありますし、サプライズに関してはもう配信でご確認くださいとしか(笑)。
ですが、私たちはいつも、視聴者が予測できない展開を作りたいと願っています。これから先、どんなストーリーが待っているのか楽しみにしていてください。
──それでは最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
アニタ・ソン(宋鎵琳):
この数年で、BLというジャンルが一般的なものになってきました。もっともっとたくさんの方にBLを知ってほしい、観てほしい。そのために日本のファンのみなさんも一緒に頑張りましょう!
リン・ペイユー(林珮瑜):
ぜひ私たちと一緒に『看見愛』しましょう!今後の作品も応援してください。また日本で会えることを楽しみにしています!
日本でのイベント開催も、みなさんの熱いリクエストがあれば夢ではないかもしれません。ぜひ思いの丈をぶつけてください!
僕は聞こえない。でも君の愛してるの声が見える—。
≪ストーリー≫
富豪の三代目として生まれ、台湾にビジネスのためにやってきた楊子翔。厳格な父と優秀な兄のプレッシャーが大きく孤独な青年で、唯一秘書の成豊桀だけに心を許している。街で突然暴漢に襲われたところを助けてくれた青年姜紹朋を雇い、自分の面倒を看させることにする。姜紹朋には事故で耳が聴こえなくなり、就職に苦労していた。だが家族に愛されて育った姜紹朋は、楊子翔を疑いつつも、心配をさせまいと彼の仕事を受ける。成豊桀は、偶然出会った王信家に楊子翔と間違えられるが、彼が楊子翔を殺そうとしているのを知り、そのまま楊子翔になりすました。翌朝、酔って記憶のない王信家は、隣に寝ている成豊桀を見て驚き…。
【出演】
ジン・ユン(金雲)
リン・ユー(林宇)
リン・ジアヨウ(林家佑)
リン・ヨンジエ(林詠傑)
【チーフプロデューサー】アニタ・ソン(宋鎵琳)
【脚本/プロデューサー】リン・ペイユー(林珮瑜)
2024年/台湾/25分×13話
原題:看見愛
X公式アカウント:https://x.com/seeyourlove_ofc
Instagram公式アカウント:https://www.instagram.com/seeyourlove2024/
【配信情報】毎週水曜日21時より最新話公開
*RakutenTV
https://tv.rakuten.co.jp/content/490870/
*ビデオマーケット作品ページ
https://www.videomarket.jp/title/41503J
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