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■虚淵玄さんプロフィール
1972年生まれ。ニトロプラス所属の脚本家・小説家・シナリオライター。
シリーズ構成、脚本を手掛けたTVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』にて、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞。『Fate/Zero』、『翠星のガルガンティア』、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』、『PSYCHO-PASS サイコパス』など数々のアニメの原案や脚本を手がけるほか、『仮面ライダー鎧武/ガイム』で実写作品の脚本にも進出、活躍の場を広げている。
17年11月には、国民的コンテンツであり初の長編アニメーション映画として制作された『GODZILLA 怪獣惑星』も公開。全三部作である本作では、シリーズ構成、脚本を担当した。
■『Thunderbolt Fantasy Project』とは
台湾ならば誰しもが知る伝統芸能である人形演劇“布袋劇”。その魅力に惚れ込んだ虚淵玄さんが、完全新作ストーリーを書き下ろし、台湾布袋劇で随一の知名度とクオリティーを誇る制作会社“霹靂國際多媒體股份有限公司(以下霹靂社(ぴーりーしゃ))”とコラボレーションした日台合同映像企画が『Thunderbolt Fantasy Project』です。
2016年にテレビシリーズ『Thunderbolt Fantasy 東遊劍遊紀(とうりけんゆうき)』が放映。
諏訪部順一さんが演じる流浪の剣客・殤不患(しょう ふかん)と、鳥海浩輔さんによる謎の美丈夫・凜雪鴉(りん せつあ)との宝剣を巡る武侠譚、人形劇という従来のイメージをぶち破る布袋劇ならではの全て人の手による撮影で生み出される映像は圧巻。
時間も生死も超越する壮大すぎる流離物語が病みつきになると話題になりました。その外伝として、劇場作品『Thunderbolt Fantasy 生死一劍』に続き、続編としてテレビシリーズ第2期の制作が決定しています。
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INDEX
──まずは劇場作品のお話の前に、テレビシリーズ『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』第1期について、ファンからの反応はいかがでしたか?
虚淵玄(以下、虚淵) 人形劇でカンフーアクションというスタイルが、日本ではかなり目新しいものだったと思うのですが、皆さんよくついてきてくださったなと。自分が想定していた以上の幅広さで受容してもらえたので、そこは自分としてもすごく幸せに思っています。
台湾においては、あちらの伝統に海外のテイストを混ぜるようなものなので、逆に怒られると思ったんですよね。日本で例えたら、歌舞伎の公演を見て感動したアメコミの作家が「私も脚本書きたいでーす」って言うようなものですし(笑)。
でも意外にあちらでも「これはこれであり」という評価をいただけたみたいで、そこは本当に心強かったし、ある種日本での成功以上に大きなハードルを超えられたな、という手応えがありました。
──布袋劇とはどのように出会ったのですか?
虚淵 『仮面ライダー鎧武/ガイム』をやっていた2013~14年頃ですが、たまたま台湾でサイン会がありまして、ちょうどそのタイミングでやっていた霹靂社さんの展覧会を見に行ったのがきっかけです。
布袋劇のクオリティーの高さは、もう間違いなく世界に受け入れられるところまで到達していると思いました。これだけのクオリティでしかも長く続いているものが、隣の日本に全然伝わっていないってちょっとありえないだろうと、衝撃を受けましたね。
実は以前にも、『聖石傳説』という作品が日本公開されたのですが、あまり知られていない。今のこのクオリティなら伝え方を工夫して日本に紹介すれば広められるのではないかと思い、その場でDVDボックスを買って霹靂社さんに対して新企画の企画書を作ろうとしていたのです。
一方、サイン会の会場で取材を受けたときに、僕がそのDVDボックスを持ってはしゃいでるところが写っちゃった(笑)。それが台湾の地元の新聞に掲載されて、その記事を見た霹靂社さんからも、オファーが来まして。こちらとしては渡りに船でしたね。最初はあちらの劇場作品のスピンアウトを作ろうという話で始まったのですが、やっぱり日本向けにちゃんとチューニングしたものを一から作った方がいいのでは、となりまして、『Thunderbolt Fantasy Project』が始まりました。
──布袋劇を日本に紹介しようと思われたとき、ターゲット層としてどのあたりを意識されていましたか?
虚淵 女性ですね。
今回の企画は女性頼みをはなから意識していました。最初に布袋劇を見た博覧会で、一番イメージしたのが日本のドール文化でした。
これだけドールのお客さんがいるのであれば、彼女たちに向けたコンテンツとして勝負できるものになるだろうという思惑もありましたね。
布袋劇ならではのキャラクターの美麗さは、女性にうけるだろうなと。美しいものを愛でるのはやっぱり男よりは女性の感覚だろうと思いますし、衣装の絢爛さも、宝塚とかそちらに通じると思います。
アクションは、本当に男の子向けのジャンプ路線なのですが、それを演じるキャラクターがすごく美麗で繊細な衣装をつけて、しかも絶対作画が崩れることもない(笑)。ですので、最初にフックする、一番頼みになる客層は女性だとの思いはありました。
──実際に『Thunderbolt Fantasy Project』の中で、台湾の布袋劇と異なっている部分はどこでしょうか?
虚淵 まず、人形の顔の作りが圧倒的に違うみたいです。お国柄というか美的センスの違いもあって、『Thunderbolt Fantasy Project』に関してはかなり日本向きに寄せてもらっています。
ただ、どちらかと言うと、造形については台湾の布袋劇の方々が海外の文化のテイストをどんどん取り入れていって、今の霹靂社さんの作品が成り立っているので、そういう中で日本のアニメキャラクターやドールのテイストを意識して取り入れていったのではないかと思います。
僕の感覚だと、2012年あたりを境目にしてキャラクターの顔の作りが一気に西洋風というか、天野喜孝さん風(笑)と言いますか、切れ長の眼差しというのに切り替わっていくんです。ここまでくると布袋劇自体が古典芸能の流れを汲む新しい芸能として、海外の人にも親しまれるのではないかという思いもあって、今の日本でもう一回挑戦出来ないかと思ったんです。
──丹翡(たんひ)の造形は特に日本のアニメキャラクターに近いですよね。
虚淵 そうですね。霹靂社さんもチャレンジ大好きみたいなんですよ。目新しいことをやってみたいという意思にすごく溢れている現場なので、こちらとしては衣装イメージぐらいのつもりで、デザインを提出したら、本当にもう寄せられる範囲まで寄せて作ってきてくれたので、すごくびっくりしました。
逆に、殤不患の顔は悩みましたね。雅なキャラクターが台湾だと主流なので、そうではないキャラクター、優男と二枚目になりきらないところの匙加減というところで悩みました。
結局、あちらで彫っていただいた人形がベストな解になりました。チャレンジ精神が生かされた結果の造形美ですね。
──『Thunderbolt Fantasy 東遊劍遊紀』では、人形だけでなく、敵将・蔑天骸(べつてんがい)の居城である七罪塔や、妖荼黎(ようじゃれい)といったクリーチャーデザインも非常に印象的ですが、どのように制作されているのですか?
虚淵 イメージだけお伝えしてデザインは霹靂社さんにお願いしてますね。
「おどろおどろしい方向で」とかそのぐらいの漠然としたものなのですが、それを霹靂社で無理なく実現できるサンプルをあげてもらう形です。
どう動かすか、どうセッティングするかというのは完全にあちらの現場の作業に直結する部分なので、それがベストと思えるものを考えていただきたいとお願いしています。
──カット割りやカメラワークも印象的なのですが、それも霹靂社で作られているのでしょうか?
虚淵 そうです。こちらから何かオーダーするとしたら、話の矛盾が生じてしまった場合や、解釈として誤解を招きそうな表現になった時だけ、そうじゃないんですって話はしますが、あとの映像設計はほぼお任せですね。
──特殊効果や、血液・風を使った演出も目立ちます。
虚淵 90 cmぐらいの高さの木偶(でく)と呼ばれる人形で演じるので、あの手のエフェクトが大変効くんですよね。
血しぶきなんて一番簡単な方法だと紙コップで血のりを撒いたりします。ホースで撒いたりとかいろいろなやり方がありますが、そういうことがあのサイズの人形だと可能なんです。
──キャラクターの死に様もかっこいいというか……。
虚淵 あちらの死に様はとても派手ですよね。布袋劇では、キャラクターが死ぬとその場で端切れになってパッと散る。脚本ではテレビシリーズの1話で、丹衡(たんこう)が爆発するのは是非やってくれと言いました。布袋劇とはこういうものだということを、まず日本の方々に分かってもらうための1話冒頭のバトルですね。すごく特徴的で独特な表現方法で、いきなり見たら視聴者が途方に暮れるのではと思ったのですが、今後いろんな布袋劇を日本で見られるような土壌作りとしての一本としたかったので入れてもらいました。
──霹靂社で制作をお願いして、逆に意外なイメージで戻ってきたものもあるのでしょうか?
虚淵 それは多々ありますね。
それこそ大きな点で言えば、先程も触れましたが、殤不患の造形ですね。彼は最後までどういう造形にするか悩み抜いたのですが、向こうで上げてもらった木偶(でく)が本当にいい顔していたので、これで行きましょうって。そういう現場ありきの決定は多いですね。
こちらが意図したものと、向こうがあげてきたものが全然違っていても、むしろそこを楽しくてやっているくらいのものなので、話が成り立たないってぐらい食い違わない限りはOK出してしまいますね。
これはこれで面白いからちょっと脚本変えましょうって。
蔑天骸の手下の玄鬼宗(げんきしゅう)もね、あんなかっこいい仮面を被ってるとは想像もつかなかったですし、むしろショッカーくらいの気持ちでいましたから、衣装がついたときに、「わあかっこいいじゃない」って、感動しましたね。
──ちなみに虚淵さんのお気に入りの人形は誰でしょうか?
虚淵 豪勢さでいくと蔑天骸とか殺無生(せつむしょう)ですかね。あのキラキラ加減が(笑)。今回、衣装をちょっと抑えめにしてもらったんですよ。衣装デザインは、日本人が武侠譚として思い描く範囲の衣装を足がかりに、そこからエスカレートさせる方向性だったんです。だから途中から登場する殺無生とか、ラスボスとして登場するような蔑天骸はもうちょっとはしゃぎめのコスチュームになっています。
凜雪鴉は、はなから異質な空気をまとって欲しかったので豪奢な衣装を着せていますが、その分、殤不患を抑えめにしてもらっています。
──布袋劇では、一人の口白師(日本でいう弁士のようなもの)が全てのキャラクターを演じるのが特徴ですが、今回『Thunderbolt Fantasy Project』では、キャラクター別に声優さんを起用しているのも大きく違うポイントですね?
虚淵 あちらは語りに合わせて人形を動かすという舞台のやり方から来ている芸能なので、先に音声ありきでそこからようやく撮影が始められるんですよね。
だから、まず日本語の脚本を送って、それを中国語に翻訳して台湾でアテレコして撮影して、もう一度日本に戻ってきて声を入れるという手順で作っています。
日本語の音声を流しても、そもそも人形師さんが何を言っているかわからないと動かしようがない。だから必然的にあちらの方がわかる言語で感情移入してもらいながら、動かしてもらわないと人形の動きに情緒が備わらないんです。
日本でも、声優さんは、既にある画に声と感情を吹き込んでいくのはもうお手のものなので、やっぱり画を見てもらってから声入れてもらうほうが絶対いい。
中国語の台詞に合わせて、すごいオーバーアクションの動きをして感情表現しているので、見得の切り方や力の入れ方、アクセントのつき方が全部日本とは違うんですよね。
──台湾での布袋劇のように、声優さん一人だけで全キャラクターを演じてもらおうという案はなかったのでしょうか?
虚淵 それに関しては、日本の声優さんは魅力的すぎました。声優さんの演技というのは日本のアニメ文化の一つの芸術の極致だと思うので、多彩な顔ぶれでそれぞれの演技でやっていただき、伝統芸能としての人形劇と掛け合わせるのがベストだと思いましたね。
──『Thunderbolt Fantasy Project』には、いわゆる虚淵節はどのように反映されているのでしょうか?
虚淵 虚淵節というか、自分の芸風というのは、自分の意識としては無自覚なので素直に作ってるとしか言いようがないですね。一番直球で面白かろうと思うものを実現させてるだけです。
ただ、しいて言うなら 『Thunderbolt Fantasy Project』 は他のコンテンツに比べてお題が少なかった。
通常は、“蒼樹うめ先生のキャラクターデザインで魔法少女のバトルもの”とか、“パトレイバーでも攻殻機動隊でもない、I.Gらしいものを作りたい”とか、そういうお題があって企画が始まるのですが、今回は、“日本人に伝わりやすいはじめての布袋劇を作ろう”という自分なりのノルマがあっただけなので、そういう意味では一番縛りがなく自由につくれたかもしれないです。
──テレビシリーズでもっと描きたかった部分はありますか?
虚淵 実はおおむね実現してるんです。第1期でも最初は12話だったはずが、カットする部分があまりにも追いつかなくなったので、土壇場で1話増やしてもらったりしていました。
殺無生については途中退場すると決まっていたので、遠慮なく(装飾を)盛るに盛れたっていうのもあります。
──劇場作品『Thunderbolt Fantasy 生死一劍』(以下、劇場作品)制作にあたって苦労した点を教えてください。
虚淵 裏方の話になってしまうんですが、続編制作にあたっての最初の出だしが一番難しかったですね。テレビシリーズ第1期は、わっと勢いで作った部分があって、継続して企画を進めていくにあたっては、やはりビジネス面での調整も必要でした。
そこからお互いのビジネスのやり方の常識の違いとか慣習の違いをすりあわせていったので、外伝をやろうという話だけはあったものの、全員合意して方向性が決まるまで、結構時間がかかりましたよね。
──劇場作品の見どころはどこでしょうか?
虚淵 まず、殺無生(せつむしょう)編は、彼が結構濃いキャラだったのに途中退場してしまったので、もう一度彼に焦点を合わせた話を作りたいと思ったのがきっかけです。そこで、小説家の江波光則さんにお願いして書いていただいた外伝(※1)を下敷きに、改めてテレビシリーズと繋がるような形で若干テイストをいじり、映像化に最適化する方向で作り上げました。
ただ、それが何分後味の悪い結末の話になってしまって(笑)わざわざ劇場まで来てもらってこんな悲しい話を見せるのもよろしくないなと。後半はもうちょっと胸のすくような、笑いのある話も入れたいなと思ったので、殤不患(しょうふかん)編という、殤不患を主人公にしたテレビシリーズ第2期につながるもうひとつの短編を付け加えてオムニバス形式にしています。。
それと、殤不患とともにW主人公だった凜雪鴉(りんせつあ)がテレビシリーズ第1期は結局××××××(編集部による自主規制)で終わるので、彼が×××××××する(編集部による自主規制)話を一度はやっておきたいという意図もありましたね。凜雪鴉の活躍も見どころです。
(※1)『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 外伝』……著:江波光則(殺無生編)、手代木正太郎(刑亥編) Nitroplus Books
殺無生、刑亥の両名が、凜雪鴉と過去どのような因縁があったのかが紐解かれる。テレビシリーズ第1期の前日譚にあたる外伝小説。
(C)2016-2017 Thunderbolt Fantasy Project
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