電ファミ編集部
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1988年より続く「桃鉄」シリーズの最新作『桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~』は、長く続くシリーズの伝統を継承しつつ、更なる進化を遂げた作品として注目を集める作品だ。
今年で35周年を迎える同シリーズの最新作は、具体的にどのような変化を遂げるのか。
このたび、幕張メッセにて開催されている「東京ゲームショウ2023」のコナミデジタルエンタテインメントブースにて、「桃鉄好き芸人」を迎えて楽しく『桃鉄ワールド』の魅力を紹介する「桃鉄ワールドスペシャルステージ」が実施された。
本稿ではイベントで紹介された世界を描く「球体マップ」と、それに伴って実装された新要素の情報をお届けする。
さらに、記事の末尾には『桃鉄ワールド』の監督およびゲームデザインを手掛けた桝田省治氏、コナミデジタルエンタテインメントのシニアプロデューサーである岡村憲明氏への合同インタビューも掲載する。
インタビューでは「球体マップ」の制作秘話や『桃鉄ワールド』の開発経緯、そして約35年の歴史を持つ本作が目指す今後の展望についても伺うことができた。
ぜひ、愉快なステージイベントの様子と共に楽しんで頂ければ幸いだ。
INDEX
『桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~』は累計出荷本数400万本を突破した『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』に続く「桃鉄」シリーズの最新作。世界を舞台にした「桃鉄」となっており、日本はもちろんのこと、アメリカやアフリカ、ヨーロッパなど世界の国・地域が目的地になっている。
これまでの作品では平面のマップが採用されていたが、今作のマップは「球体」になっており、カードや特殊なマス、登場する妨害キャラクター・ボンビーも新規のコンテンツが導入されている。
今回のイベントは、司会を山口慧さんが務め、「桃鉄好き芸人」として陣内智則さん、 「すゑひろがりず」の三島達矢さんと南條庄助さん、「ライス」の関町さん、「野性爆弾」のロッシーさんが出演した。
さらに『桃鉄ワールド』の制作に協力している「地球の歩き方ウェブ」編集長の上原康仁氏、『桃鉄ワールド』の監督およびゲームデザインを手掛けた桝田省治氏、コナミデジタルエンタテインメントのシニアプロデューサー・岡村憲明氏も登壇。バラエティ番組のように賑やかな催しとなっていた。
イベントは『桃鉄ワールド』を事前に10年分プレイをしたお笑い芸人たちが、実際にプレイした経験を活かして「本作の気になる要素」を紹介する形式となっている。事前のプレイは夜の23時から翌朝の8時30分に至る激闘となったそうだ。
ゲームプレイの紹介は「フリップ芸」のようなスタイルで行われ、本作の球体マップや空路の仕様、カード、そして「新ボンビー」などの紹介が行われた。
まず、球体マップに関しては、登場するロケーションの特徴を反映しており、世界のさまざまな地域の特色を購入できる「物件」などを介して忠実に表現したものとなっている。
舞台にいる芸人たちによれば、前作に比べて「日本」の目的地の数が減り、同時に馴染みのある世界中のロケーションや、プレイヤーがあまり詳しくない地域の国家も登場するという。
本作には地球の反対側へ移動したり、させたりできる「地球の裏側カード」も登場するため、本作をプレイすれば世界の地理について知ることが出来そうだ。
また、本作では上手く空路を活用することで素早く縦横無尽な移動が行える。
ロータリーのような形状の「北極」に位置する空路で素早く遠い地域に移動したり、進行方向に障害物があれば「地球の反対側から周り込む」ことも出来ると「桃鉄大好き芸人」たちは語っていた。
また、本作に登場する進行系カードは全て飛行機となり、実際にプレイした「桃鉄好き芸人」によると3回サイコロをふれる「双発プロペラカード」が入手しやすく、適度なコストで便利だという。
同時に、今作では「世界」を旅する都合上マップが広く、進行系カードは勝利するための重要なカードとなっている。
さらに今作では、複数回使用できる「周遊カード」が廃止され、カードが3回ずつ使用できる「タンク」システムが導入される。
「タンク」システムを兼ね備えたカードは使用するたびに残りの使用回数が減っていくが、使い切る前に「給油駅」に止まることで使用回数を最大までチャージできる仕様となる。
いっぽう、「給油駅」が存在するのはハワイ、アルゼンチン、カンボジアと3箇所のみ。桝田省治氏によると「給油駅」はゴールと同じくらい重要な駅となっており、ゲームの戦略性を更に高める新要素となっているだろう。
また、イベントでは進行系以外の新カードも発表。指名した社長ひとりを世界各地の秘境に飛ばし、さらに1回休みにしてしまう「秘境探検カード」のほか、自分の足元にボムを1つ設置して敵を妨害できる「ボンバーマンカードカード」などがラインアップ。
桝田省治氏がオススメする新カードは「途中下車カード」で、8個のサイコロをふれる進行系カード「ライトニングカード」と併用することで多くのマスに停車可能となる強力なコンボを繰り出せるそうだ。
また、イベントでは今作より登場する新規の「ボンビー」の詳細も明らかにされた。
紹介されたボンビーは、プレイヤーを強制的に移動させ、移動距離に応じた金額を没収してくる「世界旅行ボンビー」。そして、プレイヤーの物件やカード、所持金をマップ上にバラまいてしまう「ばらまきボンビー」の二体だ。
桝田省治氏によると2体のボンビーは「過去作のボンビーの性能」を踏襲しつつ本作の特徴である「球体マップ」にマッチし、ブラッシュアップしたものとなっている。
また、「ばらまきボンビー」がプレイヤーに与えるダメージはゲームの序盤であっても、終盤であっても変わらず強力なものとなっており、桝田氏も「キングボンビー」以上に嫌なボンビーであると語っていた。
また、本作には「伝染病にうちかて!」「救援物資をとどけろ!」「IT長者をめざせ!」という、昨今の世相を反映したイベントが遊べる新モードが用意されている。
くわえて、本作には訪れたことのある駅や出会った歴史ヒーローなどを振り返れる「マイワールド」モードも搭載される。
イベントの最後には本作の制作総指揮を務め、『桃太郎伝説』および『桃太郎電鉄』シリーズの生みの親である「さくまあきら氏」によるメッセージも公開。「海外に縁がなかった」さくまあきら氏が桝田省治氏を説得し、本作が誕生しているという開発経緯が明かされてイベントは閉幕した。
──『桃太郎電鉄ワールド』は「球体マップ」という新要素を軸に開発されていることが伺えます。開発をする際には、どのような変化がありましたか?
桝田省治氏(以下、桝田氏):
具体的な開発の話で言えば、平面ではなく「球体マップ」で作成するうえで、開発陣に「正しく指示を出す方法」すら無くなってしまったことが大変でした。
たとえば、メルカトル図法で描かれるロシアは巨大ですが、球体で見たときのロシアの面積はそこまで大きくない。なので、平面で用意したデータをそのまま「球体」に落とし込むと図形が意図せず伸びてしまう。
このように、平面の地図を書いても「最終的には球形のマップになる」ので、お互いのイメージにズレが生じてしまうんです。
なので、修正案を出す際には「北緯〇度の奴を、もう少し東に動かして」といった指示をする必要がありました。
──とにかく「開発で指示を伝えること」そのものに難度が生まれてしまうと。
桝田氏:
そうですね。基本的なコミュニケーションの時点で難しかったです。マップの全ての要素は「緯度と経度」を持っていて、それにより「地球の裏側カード」も実現しています。
また、「プレイヤーに伝える」プロセスにおいても難しさが生じていて、それは「日本の土地勘が通用しない」ということです。
例えば日本を舞台にした「桃鉄」シリーズであれば「北海道は北にある」という感覚を利用した“伝え方”が出来ました。でも「世界」を舞台にした瞬間に「目的地」の方角や距離感が掴めなくなってしまうんです。
この問題をうけて、次の目的地を伝える際には「地球をグルっとまわして場所を伝える」演出にしたり、従来の「目的地を示すピンクの矢印」に加え、「目的地までの最短ルートを画面上に表示する機能」を用意しました。
特に最短ルートを表示する新機能はCPUの負荷が高かったですが、プレイヤーが迷わないようになんとか実現しました。
これらの取り組みは頑張るほどプレイヤーには伝わりづらいのですが、『桃鉄ワールド』を今までの「桃鉄」の感触に近づけることは意外と大変な作業になっています。
──『桃太郎電鉄』ファンの中には、「100年のソロプレイで全物件を制覇する」というプレイスタイルで楽しんでいる方もいると思います。このプレイスタイルは「世界」を舞台にした本作にて、どのように変化しているのでしょうか。
桝田氏:
ごくごく平均的なプレイヤーは、100年でも全制覇するのは難しいと思います。なぜなら、僕が初めてプレイした際にも全物件の制覇には90年以上要したからです。
その理由は、マップが広いということ、そしてCPUが粘り強いということに由来しており、実際にプレイすると「CPUが一個だけ物件を購入している」という場面もありました。
これを受けて製品版には「圧倒的に敗北していれば、CPUが抵抗を辞める」モードなども作ったのですが、プレイする際のCPUを強く設定すると、「全物件の制覇」はかなり難しいと思います。
ただ、全物件を購入するための作戦をしっかりと考えてプレイすれば、僕の場合は60年くらいで全て購入できました。難しいのですが、成功させることは可能なはずです。
──「世界」を舞台にした『桃鉄ワールド』では、どのようなこだわりで登場する都市を選定しましたか。
桝田氏:
最初に掲げた目標は、「オリンピックの入場行進」を見て、本作をプレイした子供たちが「『桃鉄』で行ったことがある!」と言えるようにすることです。
ただ、オリンピックには凄い数の国が参加しますよね。なので、参加国に関しては知名度が低くても「できる限り入れよう」という考え方で、各国の首都などを取り入れています。
もちろん、面積が物理的に広い中国やアメリカ、ロシアといった国は首都以外も用意していて、「アメリカってこんなに広いんだ」と改めて思わされましたね(笑)
一同:
(笑)。
岡村憲明氏(以下、岡村氏):
また、今作では国または地域の旗がしっかりと表現されています。これに関しては日本旗章学協会の苅安望さんという方に監修して頂き、旗自体の表現はかなり正しくなっていると思います。
やはり「日本人の感覚」だけでは「世界」の事情が分からない部分は多いと思うんです。ですが、『桃鉄ワールド』では「旗の表現」以外にも各国の表現を出来る限り正しくデザインしています。
なので、本作をプレイして知った情報を元に、各国の特徴を覚えて頂けるはずです。この点は、我々が『桃鉄ワールド』において自信を持てるポイントのひとつです。
──1月には『桃太郎電鉄 教育版』の提供が開始されましたが、それ以前にも『桃太郎電鉄』で日本の地理や各地域の名産品を覚えた人は多いと思います。
今作では、ゲームの教育的な側面でこだわったポイントは「国の表現」以外にもありますか?
桝田氏:
その点に関しては、各国の「こんにちは」を覚えてもらおう、という点も意識していて、今作では目的地に到着した際に「各国の挨拶」を聞くことができます。
岡村氏:
各国の「こんにちは」を収録するために、ものすごい数の声優さんスタッフリストにクレジットされています(笑)
桝田氏:
世界中のスタジオをリモートで繋いで、海外スタジオの収録に立ち会いました。ほぼ全ての挨拶をネイティブの方に録音して頂きました。
ちなみにですが、日本語の声優さんは、日本国内で数多くの鉄道の駅アナウンスを担当されている「大原さやかさん」が担当しています。
──ニンテンドーDS用ソフト『桃太郎電鉄WORLD』から約13年の時を経て、改めて「世界」を舞台にした『桃太郎電鉄ワールド』を開発したきっかけを教えて頂きたいです。
桝田氏:
もちろん、さくまあきらさんにお願いされたことは理由のひとつですが、自分が提案した側面もあります。
なぜなら、「ゴールしたら次の目的地が現れる」という“永遠に終わらないすごろく”の形式がベーシックであり、その仕組みは恐らく「世界」でも通用すると思ったんです。
以前からさくまあきらさんに、「世界版をつくってみてはどうか」と提案していたのですが、ある日「君が作れば?」という提案を受けて、驚きました(笑)
岡村氏:
その答え合わせが、今日のステージイベントで公開された「メッセージ」でしたね(笑)
今回、さくまさんには制作総指揮というかたちで開発に携わって頂き、ゲームデザインと監督を桝田省治さんが担当したかたちになっています。
ただもちろん、さくまさんにも『桃鉄ワールド』をすごいプレイして頂いているんです。
さくまさんから開発中のプレイ評価をたくさん頂き、その評価をかなりゲームへ反映させています。なので、制作総指揮として「さくまあきらさん」がしっかりと監修を行っていると認識して頂いて良いと思いますね。
桝田氏:
むしろ、無茶な仕様ほどさくまさんが提案していると思ってください。というのも、僕はさくまさんが30年育ててきたブランドを預かっている立場であり、売り上げや「従来の『桃太郎電鉄』のイメージを守ること」を意識します。
ですが、さくまさんは突然「世界だったら新幹線じゃなくて、飛行機だろう」と、ブランドの根本的なイメージに関わる提案をするんです。
岡村氏:
一時期、さくまさんから「SLを飛行機にすれば良いんじゃないか」という衝撃的な提案を受けたのですが、プロデューサーの立場から「“電鉄”は残させてください」とお願いさせて頂きました(笑)
結果として、さくまさんの提案と「電鉄は守りたい」という意見の落しどころとして、進行系カードが飛行機に変化する仕様を考えました。
そんなやりとりを経て「『桃鉄』を壊せるのはさくまさんなんだ」と気付かされました。
そして同時に、『桃鉄ワールド』の一番コアとなる要素は「SLが飛行機に変化する」という要素になっているんです。そういったゲームの根幹に関わるアイデアを提案できるのは、さくまあきらさんの凄みであると日々勉強させて頂いていますね。
桝田氏:
やはり「線路の上を飛行機が飛ぶ」なんてことを僕が言えるわけがないんです。
実際、僕は海上にも線路を配置し、その線路をSLが走れば良いと考えており、「線路の上を飛行機が飛ぶ」という意見にも懐疑的でした。
ですが、実際に「線路の上を飛行機が飛ぶ」光景を見ても違和感が無いし、ユーザーからの反応を見ても、その違和感を否定してる人もいないんです。
岡村氏:
作中で「線路上にうんちが置かれていたら、SLが通過できない」ことに、違和感を感じないことと同じですよね。
──なるほど。
桝田氏:
あとは、今作に追加された「タンク」システムも、さくまさんが提案したものなんです。
さくまさんは「前から“周遊”より、使用回数が分かる方が良い」と言っていて、「試しにやってみて」というお願いを受けて導入に至りました。
──「タンク」システムを知ったとき、飛行機に関連して発案された要素だと思っていました。
桝田氏:
さくまさんは「タンク」とも当初は言っていなくて、むしろ「使用回数が分かる」ことを重視していました。
「タンク」になった理由は視認性といった「分かりやすさ」が大きな理由で、これまでの進行系カードである「急行、特急、新幹線」と同じくらいの分かりやすさが必要だと考えたんです。
そうなると、数字で表すのでもなく、「四角形を三つに区切ってゲージ」にする案が最適で、そのアイコンが「タンクに見える」ことから「タンクシステム」が作られました。
──アイデアを実現する上で、それを「分かりやすく伝える」ことにも苦労があるんですね。
桝田氏:
ゲーム内の概念を伝える記号を作るとき、「プレイヤーに伝わりやすい」言葉やデザインを探すのは、意外と難しい作業なんです。
桝田氏:
最後に僕が喋りたいことを伝えさせて頂きます。
先ほどのイベントでもお話をしたように、僕やさくまさんも良い年なので、どんどん体も動かなくなっています。なので、僕らが制作できなくなり、他の開発者が作っても「桃鉄」らしくなるシステムを目指し開発をおこなっています。
いわば、今までの「桃鉄」シリーズは、全てさくまさんの職人芸であり、「100年継ぎ足してる焼き鳥屋のタレ」のようなものだと思っているんです。
ですから、「タレの中身がなんなのか」という分析を我々が行い、「誰でもタレを作れる」ための作業を僕らは行っています。
──具体的には、どのような取組みを実施しているのでしょうか。
桝田氏:
簡単に言えば、さくまさんがこれまで沢山の人のゲームプレイを分析して「20年目に到達したらスタートする」と設定したイベントを、『桃鉄ワールド』では「ゲーム内で出回てっているお金の総額」が最高値の20%に到達したらイベントが開始するように管理しているんです。
このような管理方法は他のイベントでも利用していて、イベントの被害金額、獲得できる金額は「到着金のX倍」というように設定しています。
この仕組みによって、「作ったイベントを自由に組み替えられる」ので、今後、別のタイプの桃鉄を開発する際にも作りやすい環境が出来てきていると思います。
──さくまあきらさんが作ってきた「タレ」を分析する作業にも、やはり苦労はありますか?
桝田氏:
さくまさんは30年間さまざまなデータを集計しているのですが、一見しただけではデータの用途が分からないことが大変ですね。
たとえばさくまさんの資料には、かなり極端な状況を分析したものや、既に使われていないカードの資料などが存在し、その入り組んだ資料が30年分あるので分析に骨が折れます。ただ、かなり資料やデータの整理はかなり進んできています。
──本日はありがとうございました!(了)
『桃太郎電鉄』シリーズといえば、だれと遊んでも楽しい「鉄板のパーティーゲーム」として認識している人も多いかもしれない。
しかし、今回お話を伺うと、同シリーズが持つ35周年の濃密な歴史と強度を思い知らされる。そして『桃太郎電鉄』シリーズは今後も更なる進化を遂げるはずだ。
興味がある読者は、11月16日にNintendo Switch向けに発売される『桃鉄ワールド』の発売を楽しみに待とう。
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