SNSで超話題の『ジャン神』完結。オタクの「クソデカ感情」を揺さぶった"おけパ"の存在とは

今、Twitterで話題沸騰となっている『同人女の感情』改め『私のジャンルに「神」がいます』。
真田つづるさん(@sanada_jp)が2週おきにTwitterにて更新中のマンガで、同人活動をしている女性たちを主人公にさまざまな感情と人間ドラマを描いた作品です。

第1話「秀才字書きと天才字書きの話」が公開され、その後も続けて作品が発表されるごとに読者が急増していき、今や新作が公開されると「綾城」「おけパ」など登場人物の名前がTwitterのトレンドに入るほど。

同人界隈のコアでマニアックなネタを扱いつつも、誰でも楽しめるようなテンポの良さと細かい状況説明、感情描写の秀逸さなどの魅力があり、創作に携わっていたり実際に同人活動をしている読者の心を掴んで離さない話題作となっています。

『私のジャンルに「神」がいます』(KADOKAWA)

『私のジャンルに「神」がいます』(KADOKAWA)

『私のジャンルに「神」がいます』(KADOKAWA)
今回はそんな『私のジャンルに「神」がいます』通称『ジャン神』の魅力をさらに深く紐解きながら、同人活動をする女性(通称:同人女)の抱く感情について触れていきます。

「絵描き」ではなく「字書き」にスポットを当てたストーリーが斬新

『ジャン神』の登場人物に共通していること、それは全員が同人活動における「字書き(=イラストやマンガではなく小説を書く人のこと)」であることです。

シリーズ内における「神」こと綾城、彼女の友人であるおけけパワー中島(通称:おけパ)、そして毎話ごとの主人公。彼女たちの全員が字書きであり、同人誌即売会やP支部と呼ばれる投稿サイトで自身の同人小説を発表しています。

これまで同人界における「絵描き」の実録エッセイマンガや創作マンガが多く見受けられた中で、「字書き」にスポットが当たっている『ジャン神』。絵描きに比べて陽の光が当たることが少ないと思っている字書きの皆さんには、本作の存在とそこで描かれた悲喜こもごものリアルな感情に「あっ、これは私だ」と救われた方も多いのではないでしょうか。

『ジャン神』は字書きが主人公のストーリーですが、描かれている内容は同人活動をしているすべての人々の共感を呼ぶものとなっています。普遍的な同人活動の悩みや創作することへの苦しみ、喜びを網羅した構成だからこそ、特定の人々だけにでなく幅広い層に届く作品となっているのではないかと推測します。

オタクなら誰しもが抱く「クソデカ感情」

第1話『秀才字書きと天才字書きの話』では、主人公の七瀬がP支部で神字書きである綾城を発見し、彼女のTwitterをフォローした後にフォローバックしてもらう(=認知してもらう)ため己のスキルを磨き鬼のように小説を書き続け、”同人小説に魂を奪われた亡霊”と化していく様が描かれています。

また、第2話『神字書きがジャンル移動する話』では、活動ジャンルを移動してしまった綾城に心底惚れ込み、彼女を引き戻そうと執念を燃やしながら小説を執筆し、結果的にそのことが綾城の耳にも入り功を奏す友川という女性が登場します。

憧れや嫉妬、比較や執念など、本作の主人公たちは物語の中心人物である綾城に対し実にさまざまな衝動ともいえる感情を抱いています。
その感情の強さ、濃さは、一般的なコミュニケーションと比較すれば、”重たい”と受け止められるほどの熱量が秘められています。

これは俗に「クソデカ感情」と言われ、彼女たちはこの感情を原動力としながら自身の創作に熱意を燃やしています。秘めた思いながら具体的な行動を起こす理由に直結することもある「クソデカ感情」は、一種のネット用語でありながら私たちが生きる上で抱く感情を表す言葉としてとても近しく、また誰しもが持ちえる「人間としての側面」を見せています。

大抵の人は、この「クソデカ感情」を抱いている人間のことを客観的に見てみたい、という欲求を持っています。傍から見れば、誰かや何かに夢中になっている人のことを見るのは興味深くもあり、「好き」という感情を拗らせたその姿は自分自身にも似通ったものがあると感じることができるからです。
そんな「クソデカ感情」を描いた作品であるからこそ、本作はより読者と近い距離にあるのかもしれません。

読者を翻弄しつづける、謎の登場人物「おけパ」の人気

『ジャン神』が更新されると必ずといっていいほどトレンド入りする「おけパ」こと「おけけパワー中島」。神字書きである綾城の旧来の友人として登場する彼女は、いまだ顔も姿も作品に登場していないにも関わらず、時に「綾城とはずっと仲の良い友達」ということを仄めかすような発言をしたり、旬ジャンル(=盛り上がっているジャンル)に綾城を誘ったりと、派手な行動・言動が目立ちます。

そのせいで彼女は他の綾城を慕う女性たちから敵視や嫉妬をされたりといったこともしばしば。しかしたまに機転のきいた行動をしたり、主人公たちと綾城を繋げるパイプの役割をしてみせたりなど、一概に憎まれ役とはいえない絶妙なキャラクターとして人気を博しています。

毎話ごとに登場する、綾城に何らかの感情を向けた主人公と、彼女たちの感情を一身に受け止める綾城、そして彼女の友人であり自由奔放なおけけパワー中島。
この構図は、同人界特有の創作への思いと人間関係が交錯するネットワークをややこしくなく、かといって単純でもなく巧みに表現しているといえます。まさに同人界における縮図の1つ、といってもいいでしょう。

誰しもが楽しめる「すべての創作する人へ向けた」マンガでありながら、登場人物たちと深く共感できる特定の層にも「えもいわれぬ感情の行く先」を届け、嵐のような共感を呼び覚ます『私のジャンルに「神」がいます』。
最も大きな魅力はやはり、シンプルな人物相関で同人界の「あるある」を表現してみせているリアルな描写力なのではないでしょうか。

そんな『ジャン神』もついに11月7日の友川編で最終回を迎え、その翌週1来る11月12日に単行本化されます。今までに発表されたストーリーも含め、書き下ろしとして収録されるのは「綾城とおけパが出会ったばかりの頃の話」
彼女たちの出会いは一体どんなものだったのか?既に読み終わった話とともに書き下ろしのストーリーを読むと、また新たな発見があるかもしれません。

最終回を見届けた後も、単行本という形で「同人女たちの感情」にまた触れられる……ファンにとってこんなに嬉しいことはありません。彼女たちが創作に打ち込み、切磋琢磨した姿が紙媒体で見られる日を楽しみに待ちたいですね。

(執筆:安藤エヌ)

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