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『うっせぇわ』Adoはニコニコ動画世代・最後のアーティストか。“あるオタク層”に共感を呼ぶワケは

2021年3月現在、YouTubeでの公式動画がまもなく1億回を突破しようという超人気曲となった、Adoさんのメジャーデビューシングル『うっせぇわ』
YouTubeやTikTokでの歌唱動画の投稿で火が付き、今インターネット上で一躍ムーブメントとなっている楽曲として、多くの方がお馴染みの事と思います。

ですが、いまだにこの『うっせぇわ』ムーブメントについてピンと来ていない方も多いと聞きます。
このムーブメントを起こした層は一体どこなのか、そしてどこが響いたのか?

そこで約10年のミュージシャン活動経験があり、現在は音楽・漫画等のカルチャーライターとしても活動する私、曽我美なつめが考えるその理由をお伝えします。

『うっせぇわ』 ジャケット写真より

『うっせぇわ』 ジャケット写真より

via 『うっせぇわ』 ジャケット写真より

『うっせえわ』ムーブメントを起こしたのは誰か

思春期や若者独特の反抗心の描かれた歌詞や、ハスキーかつ聞き馴染みの良いAdoさんの歌声など、楽曲が上記のSNSのメインユーザーに刺さった要因については、様々な点が挙げられています。

これまでにも『夜に駆ける』のYOASOBI『香水』の瑛人さんなど、アーティスト自体が無名でもSNSを発端としてトレンドになった曲は多数あります。
ですが、せつない恋心を歌った曲でもなく今風の耳なじみのよいサウンドとも異なり、この『うっせぇわ』は社会へのアンチテーゼを大々的に掲げた、社会の潮流に反した圧倒的に異質で攻撃的な曲です。
さらにこの曲を歌うAdoさん自身や、楽曲制作を手掛けたsyudouさんの主戦場はネットであり、一般的にはそこまで名の知れたアーティストではありません。

ともすれば公の場でも敬遠される可能性も高いこの曲を、ここまでの一躍ムーブメントに押し上げたのは誰か。
それはきっと「数年前であれば活動の主戦場をニコニコ動画としていた人たち」なのではないでしょうか。

元々この曲を歌唱するAdoさんは、数年前からニコニコ動画でいわゆる「歌ってみた」動画を投稿する歌い手としての活動を行っていました。
楽曲の制作者でもあるsyudoさんもまた、今をときめく米津玄師さんやヨルシカのコンポーザー・n-bunaのようにボーカロイドプロデューサー(ボカロP)として活躍していた人物です。

それだけを聴けば、いわゆるニコニコ動画を始めとしたオタクカルチャーに親しむ人の中でももっとこの曲が親しまれていても良いはず。ですが、実際には大きな温度差があるのが実情です。

【Ado】うっせぇわ

その最も大きな理由。それは数年前であればこの『うっせぇわ』のような曲をキャッチアップして、いわゆる「歌ってみた」に始まる自己表現動画をアップしていた層の人々が起こしたムーブメントという点ではないでしょうか。

なかでも“誰かに自分の表現活動を見て欲しい”と思っていた彼ら彼女らが、このニコニコ動画より作品を上げる事も簡単で、同時により大勢に動画を見てもらえるYouTubeやTikTok。そちらに主戦場を移す流れは、けっして想像に難くないことでしょう。

しかしそれはつまり、YOASOBIのコンポーザーであるAyaseさん、『呪術廻戦』OP抜擢も記憶に新しいEveさん。今を時めくエンタメユニット・すとぷり、先日でんぱ組.incへの衝撃加入も話題となった愛川こずえさん、そしてこの曲を歌うAdoさんなど。米津玄師さんを筆頭として広がってきた、ネット発の様々なアーティストたち。

上記に挙げた面々が、もしかしたら私達オタクがこれまで数多く見てきた「ニコニコ動画出身アーティスト」の、最後の世代となることを示しているのかもしれません。

自己表現欲求はなくならない

それでも、ネット上で自己表現活動を続けるオタクがいなくなることはありません。
先述の通り、ニコニコ動画からYouTubeやTikTokという場所に戦場を移し、彼らはこれからも誰かに見つけてもらえるその日をひたすら待ち続けます。

卵が先か、鶏が先か。オタクだから社会で生き辛いのか、社会で生き辛いからオタクになったのか。
昔に比べ、オタクという存在は確かにずいぶんマジョリティとなりました。
しかしそれでも依然として、世間一般の普通の人へのコンプレックスや反抗心を抱える事が多いのも、オタクカルチャーに親しむ人々に未だに多い傾向の1つでしょう。

だからこそ、そんな社会に中指を立てる曲に共感や賛同を覚える人々。そして同時に、大なり小なりの自己表現欲求を抱えている人々。
彼ら彼女らの存在によって、この曲はきっと現在のようなムーブメントを巻き起こしているのです。
今現在この曲を支持する当事者ではなくとも、いわゆるオタクとして自己表現をする道を通ってきた人々からすれば、そんな思想に多少なりとも理解や共感を覚える部分はあるはず。

『うるせぇわ』を聴いて、数年前にニコニコ動画で発表された楽曲である梨本Pによる『くたばれPTA』のことを思い出した人は、まさにその最たる存在ではないかと思います。

【初音ミク】つまんねえな【オリジナル曲】

梨本Pの別曲『つまんねえな』
なかにはきっといまだにニコニコ動画の広大なサーバーの片隅に、消したい黒歴史のような自身の「歌ってみた」動画が漂っている、という方もいるのかもしれません。

何よりこの『うっせぇわ』を歌唱するAdo自身も、自分がそんな存在であることを自覚している1人なのでしょう。
彼女は自身のSNSや様々な場面において、以下のような内容の旨をよく公言しています。

“陰キャ(厨二病持ち)だけどメチャクチャ目立ちたいという意思が強くなってしまった結果   このような生き物が誕生してしまった”(公式Twitterより)

特筆すべきは彼女がまだ若干18歳という若さにして、あんなに反抗心満載の楽曲を歌唱しているにも拘わらず、ある意味でオタクらしさの垣間見える面倒なその自意識を、本人はつとめて冷静かつ客観的に自覚している部分です。

その早熟とも言える精神性を持つ彼女が、この曲を歌っている点もまた。大勢の彼女と同年代かつ同じような自意識に駆られる人々に、楽曲が支持される理由の1つなのかもしれません。

(執筆:曽我美なつめ)

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numan編集部

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