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ですが、いまだにこの『うっせぇわ』ムーブメントについてピンと来ていない方も多いと聞きます。
このムーブメントを起こした層は一体どこなのか、そしてどこが響いたのか?
そこで約10年のミュージシャン活動経験があり、現在は音楽・漫画等のカルチャーライターとしても活動する私、曽我美なつめが考えるその理由をお伝えします。
INDEX
これまでにも『夜に駆ける』のYOASOBIや『香水』の瑛人さんなど、アーティスト自体が無名でもSNSを発端としてトレンドになった曲は多数あります。
ですが、せつない恋心を歌った曲でもなく今風の耳なじみのよいサウンドとも異なり、この『うっせぇわ』は社会へのアンチテーゼを大々的に掲げた、社会の潮流に反した圧倒的に異質で攻撃的な曲です。
さらにこの曲を歌うAdoさん自身や、楽曲制作を手掛けたsyudouさんの主戦場はネットであり、一般的にはそこまで名の知れたアーティストではありません。
ともすれば公の場でも敬遠される可能性も高いこの曲を、ここまでの一躍ムーブメントに押し上げたのは誰か。
それはきっと「数年前であれば活動の主戦場をニコニコ動画としていた人たち」なのではないでしょうか。
なかでも“誰かに自分の表現活動を見て欲しい”と思っていた彼ら彼女らが、このニコニコ動画より作品を上げる事も簡単で、同時により大勢に動画を見てもらえるYouTubeやTikTok。そちらに主戦場を移す流れは、けっして想像に難くないことでしょう。
しかしそれはつまり、YOASOBIのコンポーザーであるAyaseさん、『呪術廻戦』OP抜擢も記憶に新しいEveさん。今を時めくエンタメユニット・すとぷり、先日でんぱ組.incへの衝撃加入も話題となった愛川こずえさん、そしてこの曲を歌うAdoさんなど。米津玄師さんを筆頭として広がってきた、ネット発の様々なアーティストたち。
上記に挙げた面々が、もしかしたら私達オタクがこれまで数多く見てきた「ニコニコ動画出身アーティスト」の、最後の世代となることを示しているのかもしれません。
卵が先か、鶏が先か。オタクだから社会で生き辛いのか、社会で生き辛いからオタクになったのか。
昔に比べ、オタクという存在は確かにずいぶんマジョリティとなりました。
しかしそれでも依然として、世間一般の普通の人へのコンプレックスや反抗心を抱える事が多いのも、オタクカルチャーに親しむ人々に未だに多い傾向の1つでしょう。
『うるせぇわ』を聴いて、数年前にニコニコ動画で発表された楽曲である梨本Pによる『くたばれPTA』のことを思い出した人は、まさにその最たる存在ではないかと思います。
何よりこの『うっせぇわ』を歌唱するAdo自身も、自分がそんな存在であることを自覚している1人なのでしょう。
彼女は自身のSNSや様々な場面において、以下のような内容の旨をよく公言しています。
特筆すべきは彼女がまだ若干18歳という若さにして、あんなに反抗心満載の楽曲を歌唱しているにも拘わらず、ある意味でオタクらしさの垣間見える面倒なその自意識を、本人はつとめて冷静かつ客観的に自覚している部分です。
その早熟とも言える精神性を持つ彼女が、この曲を歌っている点もまた。大勢の彼女と同年代かつ同じような自意識に駆られる人々に、楽曲が支持される理由の1つなのかもしれません。
(執筆:曽我美なつめ)
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