numan編集部
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「ボイスニュータイプ」誌の同名連載から12本、WEBサイト「KIKI by VOICE Newtype」で連載の「斉藤壮馬のつれづれなるままに」から厳選された10本、本書のための書き下ろし3本と、3年間にわたってつづられたエッセイのほかに、斉藤さんの地元・山梨での撮り下ろし写真が収録されています。
INDEX
もともと文章を書くのが趣味だという斉藤さん。エッセイにはご自身の体験や過去の記憶にまつわる事柄を軽いタッチで書き綴られていて、思わずクスリと笑ってしまうようなオチのついていることも多いのですが、その端々に、読んでいるこちらがハッとさせられるような表現がいくつもあります。
痛みや怖さ、眠れない夜の話から、おいしいお酒やお寿司の話。仕事のこと、音楽のこと、家族のこと、友人のこと……どれを読んでも不思議と五感に訴えてくるのです。
その文体の持つチカラを感じれば、ご本人がエッセイの中で"本"と"サブカルチャー"が好きだと明かしていることにも納得がいくというもの。さまざまな本や音楽、カルチャーに触れて吸収してきたものすべてが斉藤さんの血肉となっていて、「声優・斉藤壮馬」の演技の繊細な魅力につながっているのかも、とさえ感じました。
詳細な内容はぜひ本書で楽しんでいただきたいですが、読んでいると斉藤さんの心のなかを覗きみたような気持ちになれて、なんだかくすぐったい。
「芝居の巧拙はともかく、クリアな声と滑舌、無駄な力みのないまっすぐな音がそこにあった」(p162)と。一方最近では、思うように声が出ず自分は何をやっているのだ、もう駄目なのではないかと思うことも多々あるのだそう。
そんな中、尊敬する先輩との話から斉藤さんがたどり着いた答えは「もっともっとがんばってもいいんだ、楽しみながらがんばることは決して間違いじゃないんだ」(p163)というもの。
苦しくても、その先に幸せが待っていると信じて続けるのだ、と。声優として多くのファンに愛される斉藤さんが、どんな思いで仕事と向き合っているのか。本質的な問いとその答えについて素直な言葉で触れられたエピソードは、読んでいて胸に迫るものがありました。
「夏のかおりを吸い込んだら、秋を羽織ろう。冬になったら熱燗を飲もう。そういう円環の中にたぶんぼくはいて、これからもそれが続いていくのだろう」(p165)−−それはまさにエッセイにつづられてきた斉藤さんの姿そのもののような気がします。
声優として仕事をすることも、懐かしい記憶に思いを馳せる時間も、お酒を飲むことも、友人や家族と過ごす時間も……すべてが過去から未来へと連続する輪の中にあって、斉藤さんのエッセイはそのひとつひとつの瞬間を切り取ったものなのではないでしょうか。
それこそが斉藤さんにとっての『健康で文化的な最低限度の生活』なのだと、タイトルが最後に腑に落ちる爽快さも含めて、とても読み応えのある1冊でした。
執筆:森本マリ
著者:斉藤 壮馬
定価:2,268円(本体2,100円+税)
判型:A5判
商品形態:単行本
ページ数:168
ISBN:9784041073490
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