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BLアニメ『ギヴン』と『海辺のエトランゼ』が胸に刺さるワケ。"葛藤"がリアルとリンクする

実写映画『窮鼠はチーズの夢を見る』など、近年、ボーイズラブ(BL)作品がアニメ化、映画化されるといった動きが特に活発になってきています。

9月11日より劇場公開している映画『海辺のエトランゼ』は、繊細かつ透明な描写で読者を魅了する紀伊カンナ先生の『エトランゼ』シリーズが原作。主人公・橋本駿のもとにやってきた高校生・知花実央が互いに恋をして、その想いを実らせ2人で過ごすようになってからの日々を描いた作品です。

また、8月22日より公開中の映画『ギヴン』は、キヅナツキ先生が描く同名マンガの映画化作品。バンドを結成した4人の青年たちが繰り広げるオルタナティブな恋模様は、ドラマCD化やテレビアニメ化されたことでも人気を呼びました。

『ギヴン』と『海辺のエトランゼ』。一見テイストが異なるこの2作品。
BLを嗜むイマドキな女子の心に刺さるのはどんなところなのでしょうか? その魅力に迫っていきます。

「映画 ギヴン」×「海辺のエトランゼ」スペシャルコラボPV

ドラマチックな群像劇と、二人の日常物語

まず、作品におけるキャラクターの相関において、どの部分にスポットが当たっているかに注目したいと思います。

『ギヴン』はボーイズバンドのメンバーが中心となって繰り広げられる群像劇で、『エトランゼ』シリーズは若手小説家である橋本駿と、その恋人である知花実央の2人が中心となって物語が進んでいきます。

バンドメンバーである上ノ山立夏、佐藤真冬、中山春樹、梶秋彦の4人が織りなす恋愛模様に重ねて、秋彦の元カレ兼同居人である村田雨月や真冬の幼馴染である鹿島柊、八木弦純などが関わってくる群像劇の形をなす『ギヴン』。

“それからずっと髪を伸ばしている/秋彦を好きになってから願掛けのようにずっと”
(『ギヴン』3巻より)

特徴的なのはマンガの合間にしばしば挟み込まれるモノローグ。より群像劇にドラマチックなムードが生まれ、キャラクターの心の声が聴こえてくることで、読者の心を惹きつけています。

「映画 ギヴン」本予告  2020年8月22日公開!!

対して『エトランゼ』は、常に生活と地続きのいわゆる”日常描写”と"他愛のない会話”中心となっており、駿と実央の生活するありのままの姿や、日常の中にひそむ些細な幸せ、それを感じる2人のリアルな感情を描いています。

「俺 今まで生きてきた中で/今が一番幸せだな」
(「春風のエトランゼ」2巻より)

『ギヴン』に見られる映画のようなドラマチックさに対し、私たちの日常に近い場所で起こっている出来事のように感じられる『エトランゼ』。前者は劇的な展開に揺れ動くキャラクターたちの心情を、後者は日常の中で変化していく些細な心の機微を感じとれます。

映画『海辺のエトランゼ』本予告(60秒)

また、『ギヴン』が片思いや嫉妬、執着など、複雑な感情が交錯して読者の胸を揺さぶるのに対し、『エトランゼ』は駿と実央の間に流れる空気感を緻密に描写し、より密な「想い、想われ」を読むことができ、読者は惹かれ合う2人の様子を至近距離で追いかけているような気持ちになれるのです。

群像劇と、2人の物語。ドラマチックと日常。
人物相関における描写の違いは、それぞれの作品が持つ異なる世界観を象徴しているともいえるでしょう。

キーワードは"葛藤"。ファンタジーからリアル路線へ

そしてどちらにも共通しているのは、心情に重きを置いた描写によって感情の深い部分に訴えかけてくるということ。切ない・愛おしい、といった感想を抱く作品として、2作品は現代BLの中でも特に大きな存在なのではないかと感じます。

特に2作品において重要な要素となるのが「葛藤」というワード。

『ギヴン』1巻 (新書館)

『ギヴン』1巻 (新書館)

via 『ギヴン』1巻 (新書館)
“汚したい/ひねくれきって無感情な俺にとって/柊はとくべつ眩しい
大事に、大事にしてきた/砂場でみつけた光る石を くるむみたいに
くそ/本当に俺はクソ野郎だな”
(『ギヴン』6巻より)

“人に受け入れられないって/辛いな/…もうこんなのやめたい
俺 絶対おかしい/ちゃんと女子…好きになりたい
普通がいい 普通になりたい”
(『春風のエトランゼ』1巻より)

“誰かに恋をする”ということに対し、どちらの作品にも共通して描かれていることは、キャラクターたちが”現代の若者”として葛藤し、苦しんでいるということです。

特に『ギヴン』は先に挙げた人間関係の相関から生まれる葛藤を、『エトランゼ』は自分たちが同性同士である、というところにマイノリティを感じ、苦しんでいるといった描写が見られます。

『春風のエトランゼ』1巻(祥伝社)

『春風のエトランゼ』1巻(祥伝社)

via 『春風のエトランゼ』1巻(祥伝社)
かつてのBLは受け手に対し馴染み深いものではないことも多く、非現実的な一種の「ファンタジー」として読まれてきた側面がありました。しかし、LGBTQなどの考え方が現代に浸透し始めた今、現実的な考えを含ませた作品がより読まれるようになったのかもしれません。

障壁がなく、幸せに上手くいくといった恋愛の在り方から、自分たちの存在や他人との干渉で葛藤するものへと変わっていき、困難なしに恋が成就するとは限らないという現実的な描写が登場し始めた今のボーイズラブは、BLが文化として各方面に登場してきた時代から確実に変化してきています。

まさに”新・BL時代”ともいえる、現代のボーイズラブ作品。積極的にメディア展開がされてきているのも、新たな時代を迎えているのだということを私たちに伝えているのではないでしょうか。

現代に生きる受け手として、さまざまな考えを巡らせながら作品を読む喜びを味わいたいですね。

(執筆:安藤エヌ)

●映画『ギヴン』公式サイト:https://given-anime.com/
●映画『海辺のエトランゼ』公式サイト:https://etranger-anime.com/

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numan編集部

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