DVD『カラオケ行こ!』(KADOKAWA)

映画『カラオケ行こ!』狂児と聡実の間にあるX JAPAN「紅」の意味。歌詞の先にある、二人が出した答え

「アナタの推しを深く知れる場所」として、さまざまな角度で推しの新たな一面にスポットを当てていくnuman。今月の深堀りテーマは“音楽”。うれしい時、悲しい時、幸せな時。そして、ちょっぴりつらい時も。いつも私たちに寄り添ってくれる…「音楽を推す」特集を実施中です。

そこでX JAPANの名曲「紅」が印象的に歌われる映画『カラオケ行こ!』についての考察をライターの宮本デンさんに寄稿いただきました。


2024年1月12日に公開された映画『カラオケ行こ!』は、『女の園の星』や『夢中さ、君に』で知られる和山やまさんの同名漫画を原作とした実写化作品です。主演には綾野剛 と齋藤潤 がキャスティングされ、二人の不思議な関係が物語の中心として描かれています。

ある事情で歌を上手くなりたいヤクザの成田狂児 (綾野剛)が、森丘中合唱部部長である岡聡実 (齋藤潤)に出会い頭に「カラオケ行こ」と誘うところから始まります。

原作ではX JAPANの名曲『紅』を狂児が熱唱するシーンはギャグ的にサラリと描かれているのですが、映画版では『紅』が物語の中心に据えられているように感じられるほど、執拗に狂児が歌うカラオケの場面が繰り返されます。

異なる世界に住む狂児と聡実。同じ時間を過ごしお互いのことを知っていく中で、二人の間には、言葉では表せない感情が存在することを感じさせる瞬間が何度もあります。本稿では、劇中で繰り返される『紅』が狂児と聡実の間の関係性にもたらす意味について考察していきます。
※記事の特性上、内容に触れています。

DVD『カラオケ行こ!』(KADOKAWA)

DVD『カラオケ行こ!』(KADOKAWA)

『紅』が狂児と聡実の関係にもたらす意味

まず、映画『カラオケ行こ!』は基本的に聡実視点で描かれるため、聡実の心情を多く読み取ることができます。

聡実は基本的におとなしく冷静沈着に見えますが、中学生らしく抑えきれない感情の起伏を持ち合わせていることが行動から読み取れます。特に合唱への想いは人一倍持っていて、それゆえに変声期を迎えた苦しさや、合唱部の後輩からの大きすぎる憧れに対する葛藤も強く、より不安定にさせているように見えました。

そんな聡実が抱えていたあらゆる葛藤が、ある日狂児に向けて一気に爆発します。「スケベのアホカス!狂児のドアホ!」と激高しながらも「元気が出るもの」としてしっかりとお守りを投げつける姿は、思春期の不安定さがよく出ているなと感じました。

このように聡実が全ての葛藤を狂児に向けた一方で、悩みを打ち明けたのも狂児だけでした。

映画『カラオケ行こ!』シナリオブック(KADOKAWA)

映画『カラオケ行こ!』シナリオブック(KADOKAWA)

いつの間にか聡実にとって狂児は、学校や家庭と無関係の信頼できる大人として、次第に全ての感情を向ける存在となっていったのかもしれません。

『紅』は曲を通して「大切な誰かを失った痛み・悲しみ」を歌っています。歌詞には俺(=置いて行かれた人)とお前(=去ってしまった人)の二人の登場人物の存在を感じさせます。
「『紅』が二人の関係を象徴しているとすれば、聡実にとって狂児は「大切な誰か」です。しかし、狂児にとっての聡実はどうなのか、聡実自身がひっかかりを覚える瞬間も訪れます。

聡実の感情が爆発し狂児にぶつけたあと、「ごめん」と連絡してきた狂児に対して聡実は「もう知らん。本番まで一人でカラオケしてください」と突き放します。「ばーか、慌てとけ」と独りごちり聡実ですが、狂児はあっさりと承諾してしまいます。

その連絡を無表情で見つめる聡実。実はこの時、彼はかなりショックを受けたのではないか、と感じました。

中学生のちょっとした意地っ張りに対して大人がサッと引く、という構図のため、大人からすれば狂児の対応は妥当です。しかし「自分がいなくなったら焦るのが当たり前」だと思っていた中学生の聡実からすると、そんな狂児の大人の対応の表面だけ受け取ってしまい「自分の存在はそこまで必要とされてないのかも」とショックを受けることは自然なことだと感じます。

聡実の中で自己完結してしまった感情のアンバランスさが、『紅』における「置いて行かれた人」と「去ってしまった人」という二人の運命を予感させ、少し不穏な空気が漂い始めるのです。

狂児と聡実の『紅』に対するそれぞれの答え

『紅』の歌詞に沿うなら、二人は永遠に会えなくなり、聡実は狂児のマボロシを追い続けることになるでしょう。しかし、映画では『紅』を受けいれて、それを超えた二人それぞれの答えを導き出しています。

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宮本デン

音楽と酒とネット文化、そしてアニメ・ゲームに心酔するサブカルライター。大衆が作り出すカオスがどこまでいくのか見届けたいという思いで、日々執筆活動を行っています。表現に対する深読みや考察が大好きなオタク。あなたの好きなカルチャーを、深く独自に掘り下げます。

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