第3回|「ナイフに刺さりに行け」――脚本・演出家、吉谷光太郎さんインタビュー(3/3)

吉谷光太郎氏プロフィール画像

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■プロフィール
吉谷光太郎(よしたに・こうたろう)
脚本家・演出家。ポリゴンマジック所属。
2014年にミュージカル「AMNESIA」を手掛け、注目を浴びる。翌年刊行の芸術評論紙『ユリイカ』にて、「2.5次元舞台をまかせたら、今一番の信頼度」と称される。
近年では競泳をテーマにした青春群像劇、舞台「男水!」や大人気原作を元にしたミュージカル「ヘタリア」のほかミュージカルスターに憧れる少年たちの切磋琢磨する姿を描いたミュージカル「スタミュ」など人気作品の演出を手掛ける。ストレートプレイからミュージカル、ライブ演出まで幅広いジャンルを得意とする新進気鋭の演出家。
【主な経歴】
ミュージカル『ヘタリア』シリーズ舞台『男水!』『王室教師ハイネ -THE MUSICAL-』音楽劇『金色のコルダ Blue♪Sky』シリーズ超歌劇『幕末Rock』シリーズミュージカル『AMNESIA』など。まもなく2018年3月8日より上演されるミュージカル『少女革命ウテナ〜白き薔薇のつぼみ〜』においても脚本・演出を担当する。

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【第3回】第3回|「ナイフに刺さりに行け」――脚本・演出家、吉谷光太郎さんインタビュー(3/3)

演劇界への思わぬ入り口

――ご自身が手がけた作品の中でも、転機となった作品、印象的な作品はどの作品でしょうか?

吉谷光太郎(以下、吉谷) 『ミュージカル AMNESIA』は、今の所属のポリゴンマジック(※1)と、今も一緒にやっているプロデューサーと組んだ最初の作品として。
超歌劇『幕末Rock』シリーズ(※2)は今までで一番大きな会場で出来た作品として。
ミュージカル『ヘタリア』シリーズ(以下、『ヘタリア』)は何故かよく分からないんですが、自分も表に出る機会が多い作品として(笑)。
それぞれ印象的です。

転機というか、自分の中でひとつ区切りがついた作品は『男水!』(※2)ですね。東京に初めて来たときに『タンブリング』(※3)の脚本を担当させていただいたのですが、その頃は本当に未熟で、色々な方に協力していただきながらなんとか脚本を上げたという、自分の中ですごく悔しい思いをした作品でした。そんな『タンブリング』と同じ、ドラマと舞台が連動した、スポーツものの作品ということで『男水!』のお話をいただいて、「今度こそ」という気持ちで臨みました。自分の中でやり切った時には、自身の成長を感じられた作品ではありますね。

(※1)ポリゴンマジック:現在吉谷さんが所属する舞台・映像・イベント制作会社のこと。
(※2)超歌劇『幕末Rock』シリーズ:マーべラスから発売されたゲームソフトを原作とする舞台化作品。アニメ化もされており、幕末志士の反骨精神とロックを組み合わせた独特な雷舞(ライブ)シーンが話題に。(http://bakumatsu.marv.jp/
(※3)『男水!』:木内たつやさんによる男子水泳部を舞台にしたマンガ。2017年に“男水プロジェクト”としてテレビドラマと舞台化が連動して発表された。
(※4)『タンブリング』:新体操を題材にした作品で2010年にドラマがオンエア。その約半年後の舞台タンブリングVol.1ではドラマ『タンブリング』から5年後のストーリーが描かれた。

――『ヘタリア』では色々なイベントに登壇していると聞いています。

吉谷 いや、なんか、期せずして……DVDのメイキングとかイベントでの映像とか、表に立つことが多いです。多分面白がられてるんです(笑)。

――愛されてる故かと思われます。もともと演者でもいらっしゃっいましたが、脚本や演出という作り手側に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

吉谷 養成所生(※劇団ひまわり大阪俳優養成所)だった頃に、養成所内でお笑いのコンテストみたいなのがあったんです。そこで自分をアピールしてみようと即席でクラスの人とコンビを組んで、台本を書いて漫才をしたら、優勝しちゃって。その時「面白い!」と思ったのがきっかけでした。この台本を長くしたら、シチュエーションコメディーになるのかなって、最初はそんな甘い考えでした(笑)。

演出に関しては、オーディションに落ちまくって、受かっても名前のない、いてもいなくても変わらないように感じる役が多くて……なんかもう、だったら自分が演出になって作ってみようかなと思ったのがきっかけです。そうしたら絶対自分はオーディションに受かるじゃないですか、もはやあて書きというか。自分に自分でセリフも与えられるし……っていう甘い考えから演出も始めました(笑)。
そう思うと今、初めはどちらも自分が役者としてやっていくために始めたことだったんですよね。「やるしかない!」という気持ちでした。

――さらに遡って、演劇自体に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

吉谷 高校2年生の時に、男子バレーボール部で、先生と合わなかったりいろいろあって、僕の学年が全員辞めてしまったんです。僕はバレーをやりたかったんですけど、出来なくなっちゃって。
高2というのがまたね。途中からどこかのスポーツ部に入ってレギュラーとったり、馴染んだりするのが難しい学年じゃないですか。だから、思い切って学外で何か始めてみようかなと思って、たまたま新聞記事に載っていた劇団の養成所が目に入って、なんとなくピンときて入りました。小学校の頃の学芸会とか楽しかったし、やってみようかな、くらいの気持ちで……思い返すと、青春の勢いというか、初めは部活動の代わりだったんです。

最初は、そもそも学校の演劇鑑賞会以外で演劇を見たことがなかったので、戸惑いも多かったですよ。
初めて小劇場で芝居を観た時は、ロスコ(※舞台上に漂う煙のこと)をホコリだと思ってしまったんです。養成所に入った頃って、テレビとか舞台とか、きらびやかな、華やかな芸能の世界を夢見てはいたから、「演劇ってこんなホコリっぽいところでやるの!? 嫌だなぁ」って正直ビックリしてしまいました。今となっては、あれはロスコだったんだなって笑い話の1つです。

――脚本も演出も、自分が役者としてやっていくために始めたと仰っていましたが、再び役者として舞台に立ちたい気持ちはあるのでしょうか。

吉谷 どうなんだろう。求められるものに応えることが好きみたいで。出てほしいってオファーをいただいて、自分でも、自分が出ることに意味があると思えたら、かな。

――演出・脚本も含め、こういうことをしてほしい、という欲求に応えたいと。エンターテインメント精神というかサービス精神旺盛ですね。

吉谷 そうなんです。やりたくないことは、大体ないかなと思います。サービス精神というか、人に求められると「あぁ、生きてていいんだ」って思えるから(笑)。

ストレスからドラマが生まれる

――演出や脚本執筆の時に、意識して気をつけていることはありますか?

吉谷 答えがかぶりますが、”リズム感“と”テンポ感”。極論をいえばそれのみです。脚本を書いている時も、実際に声に出してみながら、リズム感を確かめています。人間の生理として、絶対に間をとらないといけない時があって、でもその間をリアルにとるとテンポ感が崩れてしまう、物語が停滞してしまうことがあるので、そういう時に、あえて別空間のキャラクターの言葉を入れたりしています。

演出の時にはキャラクター同士の距離感にすごく気を遣っています。大きく感情が動く時って身体が動くはずで、それは素直に動いてほしいと思う。ただステージ上だと空間が限られるから、お客様への見せ方として、役者同士をクロスして動かすという手法を僕はよくやるんですけど、あれはキャラクターに感情を整理したり、息を整えたりしてもらうために動いてもらっています。それをすることで台詞のノリが全然違う。何かイマイチだなって思ったら、動いてもらうとそれが解消したりする。演技指導を全然しない代わりに沢山動いてもらっているのかもしれないです。

役者には「ナイフに刺さりに行け」ってよく言っています。例えば好きな人にフラれるシーンがあったとして、すごく近距離まで迫って告白してフラれた方がストレス値が高いな、と思ったらそうしてほしい。かわいそうだけど、そのキャラクターが傷つくことでドラマが生まれるので。

――アンサンブルキャストの動かし方も独特な印象を受けます。

吉谷 自分も役者出身だからか、出演することに意味があってほしいし、出てくれた役者にも出て良かったと思ってほしくて、アンサンブルキャストにも活躍してもらえるように考えています。あとアンサンブルを使って重厚感を出しているのは、原作を知らない人への情報の補完だったり、物語だけを追っていくのはしんどいと思う人に、視覚的に面白いものを提供したかったりとか、そういう意図もあったりします。

――それでは最後に、吉谷さんが一緒に仕事をしたい、と思える役者さんとは?

吉谷 さっき言った「ナイフに刺さりに行け」る人、かな。人間って防衛本能があるから、なかなか自分から傷つきにいくことって出来ないと思うんですよ。でも、演劇では特に、抱えているストレスからどう開放されるのか、というところにドラマがあると思っていて、その開放感を気持ちよく表現できる人はいいなぁと思います。声の抜け方や、動きとかにそれがよく表れている人は、こちらも見ていて気持ちがいいので。

自分もそうですが、ものづくりは苦労の連続です。それを含めて自分自身も楽しめる、そしてお客様を楽しませることができる役者であってほしいと思っています。

吉谷光太郎氏画像

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まとめ

脚本家・演出家の吉谷光太郎さんのインタビューを全3回にわたってお届けしました。
部活でのきっかけから演劇界に入ったというお話や、役者としてやりたいから始めた脚本・演出の話など、意外なエピソードに驚かされました。でも、吉谷さんが手掛けた数々の作品を思い返しながら、それは、必然であり、運命だったのだと思います。
ところで運命と言えば……「『絶対運命黙示録』は絶対使います!」と断言していた吉谷さん脚本・演出のミュージカル『少女革命ウテナ〜白き薔薇のつぼみ〜』は2018年3月8日(木)よりCBGKシブゲキ!!にて上演されます。
今回のインタビューで吉谷さんの脚本・演出のルーツをたどってから観劇すれば、また違った観方が出来るかもしれません。そう、世界を革命する力をもらえるかも!?

インタビュアー・執筆:通崎千穂 @tsu_otometsu

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