内山昂輝の『鬼滅の刃』累は満場一致だった。闇と純粋さ、二面性を表現する声優

新作「遊郭編」の放送が決まったアニメ『鬼滅の刃』。放送局にフジテレビ系列が加わったことにより9月2週目以降の土日祝日には各編の特別編集版や劇場版が地上波で放送され、SNSはキャラクター名やセリフの数々がトレンド入りする鬼滅祭り状態に。

9月19日には、神回として取り上げられることも多い19話を含む「那田蜘蛛山編」が放送されました。
なかでも最強(凶)の鬼・が見せた「家族の絆への執着」に、狂気を感じた人も少なくないと思います。その異常性を見事に声で表現していたのが、内山昂輝さんです。

キャラクターの闇とその背景、心がとける変化を声で魅せる

TVアニメ『鬼滅の刃』第20話場面写真より

TVアニメ『鬼滅の刃』第20話場面写真より

via TVアニメ『鬼滅の刃』第20話場面写真より
内山さんが演じた累は、感情がとても読みにくいキャラクターです。淡々と残酷な言葉を吐く様子からは、得体の知れない、倫理観が通用しない、そんな絶対的強者感が漂います。

その反面、執着している家族の絆が偽物だと炭治郎に指摘された時は、感情を囲っていた分厚い壁が一瞬で破壊され、怒りをあらわにするのです。また禰豆子が累の攻撃から炭治郎をかばった時には、声を震わせながら目を輝かせていました。

この「思い通りにならないことを受け止められない様子」と「興味の対象への無邪気な好奇心」に、絶対的強者とは思えないほどの幼稚性を感じるのです。

同じような対称性を持つ役に、『僕のヒーローアカデミア』死柄木弔も挙げられるでしょう。彼もまた、絶望的で絶大的な悪のカリスマ性を誇る「崩壊」という個性を持つキャラクターです。

しかし初期の頃は、自分の思い通りにならなければ感情を制御できなくなる、自分の目指すべき道が見えた瞬間に心の底からの(激怖い)笑顔を見せるといった幼稚な側面を見せていました。

鬼となった累は、長い時を生きています。また死柄木も20歳の大人です。

にもかかわらず幼い子どもっぽさを感じるのには、「家族に愛されたかった」という強い願望を持ちながらも、家族とのつながりを自ら切ってしまったという壮絶な過去を抱えて生きてきたことが大きく影響しているでしょう。

敵以外のキャラクターでも、『さらざんまい』の久慈悠は、大切な兄とのつながりを断ちたくないがために、視聴者の遥か上を行く壮絶な過去を引き起こしています。
また『彼方のアストラ』のウルガー・ツヴァイクも、唯一自分を愛してくれた兄の復讐を果たすことが生きる意味となっているキャラクターです。

より日常に近い役どころであれば、『Free!』の桐嶋郁弥もこの属性に含まれるでしょう。
依存に近い憧れを抱いていた兄の「仲間と泳ぐ楽しさを知ってほしい」という想いを、郁弥は突き放されたと受け止め、兄はもちろん周囲との関係をこじらせていました。

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このように内山さんは、「キャラクターが抱える大きな闇」だけでなく「背景にある純粋さ」をも声だけで見事に表現できる声優なのです。

さらに内山さんが演じるキャラクターの「心がとける変化の様子」にも注目を。
前述で紹介した死柄木以外のキャラクターたちには、感情の起伏や他者との交流があまり表現されないという共通点があります。
そんなキャラクターたちが周囲とのかかわりの中で心が溶けていく様子も、徐々に棘がなくなっていくような声色で表現しているのです。この優しい声の心地よさも、内山さんの魅力の1つでしょう。

確かな演技力と柔らかな声で幅広い役をこなす

内山さんの優しい声は、二面性のあるキャラクターだけの特権ではありません。

たとえば『風が強く吹いている』で演じた神童こと杉山高志は、初心者ばかりの大学駅伝チームを影で支える、絵に描いたような好青年です。
なにかとトラブルが起こりがちなストーリーの中で、神童の常に穏やかな声に癒されていた作品のファンもいるのではないでしょうか。神童が東北の山村出身ということもあり、その地方を感じる方言が聞けるのもポイントでしょう。

ばらかもん』の木戸浩志役でも、この柔らかな声と方言をセットで堪能できます。高校生のカッコつけたい年相応感と、素朴でゆるい島の人の絶妙なバランス感が楽しめる作品です。

DVD『ばらかもん 第二巻』画像

DVD『ばらかもん 第二巻』画像

via DVD『ばらかもん 第二巻』より
さらに内山さんに対して、優しい声の印象だけでなくナルシスト俺様キャラの印象を持っている人もいるでしょう。

甘城ブリリアントパーク可児江西也役や『Charlotte乙坂有宇役で見せた自信にあふれる男の子のハツラツとした声は、闇を抱えがちな役柄とのギャップが大きく、役柄の幅広さを感じさせてくれます。

また『Devilman Crybaby』の不動明役は、新境地開拓かと思うほどの演技を届けてくれました。
普通の高校生が悪魔を憑かれてワイルドになった様子が、獣みあふれる声への変貌で見事に表現されています。「これまでにない内山昂輝」を感じさせてくれる一作だと言えるでしょう。

満場一致で決まった”累”役。内山昂輝というジャンル

『鬼滅の刃』の話に戻ります。

実は累のキャスティングは、スタッフ満場一致で内山さんへのオファーが決まったと2019年7月6日の「鬼滅テレビ」(ABEMA TV)で明かされています。
さらに『彼方のアストラ』の飯田音響監督は、ウルガー役は「内山さん以外考えられなかった」「内山昂輝というジャンルがある」とインタビュー(『アニメージュ』2019年9月号)で語られていました。

ジャンルまでをも築き上げていると言われるほどの、内山さんの声の演技力。
これを支える大きな要因に、「声優を仕事にするとは思っていなかった」というインタビューで明かされたご自身の背景が挙げられると思うのです。

内山さんは1993年に劇団ひまわりに所属して以降、10代前半から声のお仕事を続けられています。
ただそれはインタビュー(ライブドアニュース/2019年4月24日)で内山さんが「いつの間にかなっていた」と言っているくらい、積極的なものではなかったのかもしれません。

ただ「こういう声優でいたい」という理想が強くなかった分、あらゆる役やディレクションに柔軟に対応してこれたのではないかと思うのです。

『僕のヒーローアカデミア』に関するインタビュー(アニメイトタイムズ/2021年9月18日)では、アニメっぽい声に挑戦したり、直感を大切にしたりと演じ方にブームがあったことを明かしています。

また別のインタビュー(ライブドアニュース/2018年1月4日)では、声優の仕事で大切なこととして「事前に考えていなかった演技のアイディアに、パッと切り替えられるかどうか」を挙げていました。
さらに『さらざんまい』の時のインタビュー(アニメイトタイムズ/2019年4月25日)では、年相応のリアリティな演技が難しくなってきたことを感じつつも、それが成立する現場を体験したと語られています。

『VOICE Newtype』No.058

『VOICE Newtype』No.058

via 画像:『VOICE Newtype』No.058より
これらのインタビューから、内山さんの声の演技力の根底には「役を演じる上での変化に対してナチュラルな姿勢」があるのではないかと思うのです。

仕事における変化に淡々と向き合っているように見える内山さん。その変化は、声のお仕事ではない部分にも見られます。

想いを綴るnoteが始動

2021年3月、「内山昂輝のオドリバ」というnoteが始動したのです。

これまで内山さんの情報を確認するには、7年続いているラジオ『内山昂輝の1クール!』か劇団ひまわり公式Twitterのイベント参加報告くらいしかありませんでした。それが、突然のnoteです。

「推しの文章に触れられるなんて、なんて贅沢」と衝撃を受けたファンも多かったのではないでしょうか。しかも趣味の映画レビューだけでなく、自分の誕生日の裏話や夏の思い出など、ファン歓喜の情報が満載なのです。

内山さんはこのnoteを書くことにした理由としても、ラジオの仕事におけるチャレンジの感覚の減少を挙げられています。

年々代表作が絞れなくなりつつあるくらい、声優活動の勢いも留まるところをしらない内山昂輝さん。長年続くラジオも新たなチャレンジのnoteも含め、ますます内山さんから目が離せません!

(執筆:クリス菜緒)

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