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作品の“名言”を振り返る本シリーズ。
今回は「アフタヌーン」(講談社)で連載され、アニメ化も控えている人気マンガ『ブルーピリオド』の名言をご紹介します。
映画やアニメなどエンタメライターとして活動する、安藤エヌさんに影響を与えた言葉とは?
※なお、本記事は性質上、作品の内容を含みます。
INDEX
好きだからがんばれるって、本当にそうなのかな。
主人公が自分の描いた絵に囲まれてぽつりとつぶやいたセリフに心を奪われてから、ずっとこの言葉の意味について考えています。
『ブルーピリオド』は、何事にも全力を出さずして卒なくこなす器用さが長所の高校生・矢口八虎が、ひょんなことから美術の世界の扉を叩き、芸大入学を目指して奮闘するアートスポ根マンガです。今まで何にも熱中してこなかった八虎が、初めて夢中になって追い求めたのは美術、という正解のない芸術の域。
さまざまな困難に突き当たりながら、八虎は自分にしか描けない絵を追求していくのですが、その道のりは決して生やさしいものではありません。
自己と向き合う日々が続き、ただ「楽しい」というだけでは貫くことのできない厳しい世界に身を投じていることを自覚し、苦悶します。
そんな『ブルーピリオド』を読んで、主人公の八虎に自分自身を投影させる読者も少なくないと感じたのですが、私もそのうちのひとりでした。
美術というベクトルでなくても、創作活動をしたり、好きなことを仕事にしている人なら、誰しもが八虎の発した言葉の前に立ち止まり、考えるのではないでしょうか。そう、私も同じことを思っていた、と。
もちろん、自分にとって興味の持てる、持続して取り組むことのできる対象は、自分にとっての「好きなこと」であるに越したことはありません。
しかし、そうして向き合い続けているうちに、必ず「好きなことだからこそ極めたい」という気持ちと「練磨と習練の難しさ」にぶつかります。好きだからこそ、もっとうまくなりたい。もっと良いものをつくりたい。
そんな気持ちで取り組むにつれ、力をつけていくことやスキルを磨き上げていくことの深さと難しさに打ちひしがれる日々――。
主人公の八虎と同じく、彼にとっての絵を描くことが「文章を書くこと」だった私は、文章というものに向き合い、初めて彼と同じ「本気の激情」を覚えました。
「もっとうまくなりたいのに、なれない。自分の思うような文章が書けない。好きだから続けられるというのは、楽しいから続けられるという意味ではない」ということに気づいたのです。
難しい問題に直面して、改めて「自分は文章を書くことに対して”覚悟”ができているのか?」と自問自答し、それでも書き続けたい、という答えが出せたからこそ、今の私につながっているのだと感じられました。
目をそむけたくなるほど厳しい現実を前にして、苦しい、と思うのは当然。だけれど、周りには同じように「それぞれの苦悩」と向き合っている人たちがいる。闘っているのは自分だけじゃないのだ、と思わせてくれるのが、マンガの持つ力のひとつなのではないでしょうか。
「好き」という気持ちで奔走するのは簡単なことかもしれないし、もしかしたらそれすらも難しいことなのかもしれない。そんな中、どうやって自分の「好き」を貫いていくか。現実と理想の板挟みで、自分らしさを捨てずに生きていくにはどうしたらいいのか。
(執筆:安藤エヌ)
成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎(や ぐち やとら)は、ある日、一枚の絵に心奪われる。その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。絵を描かない人にも刺さる熱くて泣けるスポコン美術物語!
■スタッフ
原作:山口つばさ『ブルーピリオド』(講談社「アフタヌーン」連載)
総監督:舛成孝二
監督:浅野勝也
シリーズ構成・脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:下谷智之
制作:Seven Arcs
■キャスト
矢口八虎:峯田大夢
鮎川龍二:花守ゆみり
高橋世田介:山下大輝
橋田 悠:河西健吾
桑名マキ:宮本侑芽
(C)山口つばさ・講談社/ブルーピリオド製作委員会
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