『ヒカルの碁』は黄金コンビの真骨頂。白熱の心理戦と等身大のキャラに夢中だった【90年代“少年ジャンプ”を振り返る】

数々の名作を生み出した『週刊少年ジャンプ』の中でも、特に90年代から連載・アニメ化された作品に影響を受けた人は多いよう。
今回は、『デスノート』なども有名なほったゆみさん×小畑健さんのタッグにより、囲碁という題材で前代未聞のヒットを遂げ、今年20周年で再び注目を集める『ヒカルの碁』を紹介します。

※記事の特性上、一部重要なネタバレを含みます。

<作品概要>
『ヒカルの碁』
原作:ほったゆみ/漫画:小畑健/監修:梅沢由香里
連載:1992~2003年/アニメ放送:2001年10月~2003年3月
受賞歴:第45回小学館漫画賞、第7回手塚治虫文化賞新生賞
TVアニメ「ヒカルの碁」20周年記念特設ページより

TVアニメ「ヒカルの碁」20周年記念特設ページより

ごく普通の小学6年生・進藤ヒカルは、家の蔵で古い碁盤を発見。すると、碁盤に宿っていた平安時代の天才棋士・藤原佐為が現れ……。
はじめは佐為の指示通りに碁を打つヒカルでしたが、次第に自ら囲碁の世界へ身を投じていきます。

部活や競技を題材とした少年ジャンプの作品といえば、『スラムダンク』のように入部希望者を全国に増やすことでも有名。
しかし、囲碁に子どもが楽しむイメージを持っている人はほとんどいなかったでしょう。
そこに革命を起こしたのが『ヒカルの碁』。本作が人気を博したことで囲碁が若年層に流行し、プロ棋士になった人も出ました。

何がそこまで人を惹きつけたのか──『ヒカルの碁』をマンガ・アニメで楽しんだ人たちの声とともに紹介します。

1対1の孤独な心理戦、等身大のヒカルたちに感情移入

『ヒカルの碁』がヒットした理由のひとつが、囲碁がわからなくても伝わるそのスリルや緊張感、勝負の面白さ。
まだ初々しいヒカルが部活で挑んだチーム戦をはじめ、プロを目指す院生になってからのまさに‟負けられない”厳しい戦い……ヒカルと一緒に読者&視聴者みんなが夢中になりました。
DVD-BOX「ヒカルの碁」全集

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via DVD-BOX「ヒカルの碁」全集
「やっぱり見どころは心理戦。1対1の戦いなので、スポ根もののように絆や気合いで乗り切れないところが独特です。
相手が次はどんな手に出るのか、『さっきまで優勢だったのに、まさかもう先を読まれている…!?』とか、気づけばヒカルと一緒に冷や汗をかいてました」

「ヒカルが院生になってからは仲間も増えたけど、彼らは『皆で一緒に勝ち上がろう』とはいかない。
全員あくまでライバルで、『待ってるから早くあがってこい』っていうスタンスがかっこよく、シビれます」

「囲碁の世界はとても大人っぽく映ったけど、ヒカルの心は当時の自分たちと同じ子どもだった。
悔し涙を流したり、自分の成長で一喜一憂したり、その等身大の心情に共感できました」

少年マンガでは、他と一線を画す厳しい世界を描いた『ヒカルの碁』。
囲碁を知らない人たちもこのように夢中にさせたのは、心情や表情ひとつひとつの巧みな描き方によるものだったのでしょう。

塔矢アキラの存在。大人と対等にやりあうキャラクターたち

囲碁の世界は10代の子どもと老齢のプロが対局したり、垣根のない戦いも特徴。
一方『ヒカルの碁』では、キャラクターの心情はきちんと子どもor大人で差があるのが面白いところです。

ヒカルに多大な影響を与えたのが、天才少年棋士の塔矢アキラ(CV.小林沙苗さん)
大人相手にも落ち着いた振る舞いですが、軽い気持ちで碁を打つヒカルには感情むきだしで怒るなど、同世代として刺激しあう存在になっていきます。

しかし有名人であるだけに、学校で囲碁部に入ると疎まれたりと苦労も多く……。

「アキラは普段大人に囲まれていて、ヒカルとは唯一、難しいしがらみ無しにぶつかり合えたんだと思う。
友情とはまた違うもので、ふたりが互いに欠かせない存在になっていくのを見守るのも楽しみでした」

「二人がしばらく口もきかないまま実力差が縮まって、互いを意識していく……その過程にライバルらしいリアリティを感じました」

CD「ヒカルの碁 キャラクターソングシングル 綺羅」

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via CD「ヒカルの碁 キャラクターソングシングル 綺羅」
同時に、クセが強い?大人のプロ棋士たちも人気。

「近寄りがたいプロ棋士たちの中で、食いしん坊の倉田棋士(CV.岩田光央さん)はほっこりする存在♪
イベント会場で売られてる碁盤が偽物だとヒカルが訴えた時は、子どものヒカルの方を信じて大人を成敗して、かっこよかった」

「当時中学生だった私は、緒方精次の大人の魅力にぞっこん! 色男なのに、酔ってヒカルに対局を迫ったりお茶目なギャップも良し(笑)。
声優が、『クレヨンしんちゃん』のひろしを演じる藤原啓治さんと知って驚きました」

緒方は大人の中で唯一アキラを叱ったり、ヒカルの実力にいち早く目をつけたのも印象的。
ほかにもさまざまな大人が、ヒカルの不思議な潜在能力に惹きこまれていきます。

佐為と伊角さんのエピソードに泣いた…

対局の緊張感とともに、感情をゆさぶられるシーンも多い『ヒカルの碁』。
もっともファンが泣かされたのは、やはり佐為(CV.千葉進歩)との不意打ちの別れだったようで……。

「自分の役目が終わったと悟った佐為に、『嘘でしょ?待って!』とびっくり。
アニメではその後、EDでヒカルと佐為が過ごした日々が流れて……『同じ時を生きてる奇跡』っていう歌詞で号泣です」

「ヒカルが‟また会える”と信じて、佐為のゆかりの地を巡るのが切ない…。
その後、碁を打つことで佐為に会えるんだと見出したところで、胸が熱くなって自分も涙ボロボロ流しました」

佐為の胸にあったのは、この世で再び碁ができた喜びはもちろん、何よりヒカルといて楽しかった思い出。
その佐為と囲碁を始めたヒカルが一人になったのも、‟成長”のためには必要なことだったのでしょう。

CD「ヒカルの碁 主題歌全集-ベスト オブ ヒカルの碁-」

CD「ヒカルの碁 主題歌全集-ベスト オブ ヒカルの碁-」

via CD「ヒカルの碁 主題歌全集-ベスト オブ ヒカルの碁-」
もう一つ忘れられないのが、原作人気投票では1位も獲得した院生最年長・伊角さん(CV.鈴村健一さん)とヒカルの、プロ試験の対局です。

優しい性格で慕われていた伊角さんですが、もうプロ試験に受からないと後がないという焦りも。
対局で反則の‟打ち直し”をしてしまった時、思わずごまかそうとしてしまい……。
ヒカルもそれを指摘して自分が勝つべきか葛藤。自分ならどうしたか?重ねた人も多くいました。

「自分がもし伊角さんなら、ミスを認めずプロになろうと思ってしまう……学業も犠牲にして人生をかけてきたとしたら、尚更」

「スポーツとはまた違う、まさに盤上で起こりえる『魔の一瞬』
反則の指摘で勝ってもそれは真の勝敗と言えるのか?悩むヒカルの気持ちもわかるし、ふたりともに感情移入して色々考えさせられました」

双方の絶妙な心理描写が秀逸だったこのエピソード。
後に、碁から離れたヒカルが再起するきっかけとなるのが伊角さんというのも、胸アツです。

囲碁という題材で歴史に残るヒットを記録した『ヒカルの碁』。
ヒカル役を務めた川上とも子さんは2011年に亡くなりましたが、今年本作が20周年を迎えたことで、再びヒカルに思いを馳せる人も増えています。
胸を熱くする名作『ヒカルの碁』を、再びマンガ・アニメで楽しんでみては?

TVアニメ『ヒカルの碁』放送開始20周年記念スペシャルPV

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