「昭和・平成アニメにはワクワク感がある」気鋭イラストレーターが“レトロ”に惹かれたワケ【前編】

昭和から平成初期の文化を現代のセンスで捉え直した「ネオレトロ」が、じわじわとブームになっています。
numan初登場となる陽子さんは、その旗手として今大注目の気鋭イラストレーター。
アニメグッズからミュージシャンへのイラスト提供など幅広く活躍し、今春には初の個展開催も!

懐かしさと新しさ、みずみずしさと鮮烈さを備えた独自の画風は、どのように確立されたのか? さまざまな作品のエッセンスを柔軟に吸収し、自身の作品として昇華する、その創作の秘密に前後編で迫ります。

【前編】の本記事では、陽子さんが“ネオレトロ”に惹かれる理由や、原点となった80年代~90年代の漫画について伺いました。

イラストレーター陽子さんイラスト

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昭和・平成アニメには“憧れ”やワクワク感がある

――この数年、イラストの世界で「ネオレトロ」の潮流が来ていますね。画集『ネオレトロ イラストレーション』(※)が発売されるなど注目度が増していますが、陽子さんが考える「ネオレトロ」とはどのようなものでしょうか。

言葉にするのはなかなか難しいのですが、「80~90年代への憧れを形にしたもの」というのが一番しっくり来る気がします。この時代のキャラクターはみんな可愛くて、いきいきしていて、色使いもきれい。たとえばデフォルメのバランス……手足や顔の比率などもだいぶ違っていて、今の作品とはまた違う味わいがあるなあと思います。

※パイインターナショナルより出版。陽子さんのイラストも収録されている。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――陽子さんのイラストは80~90年代作品のタッチを踏襲しつつ、線や色使いが現代的で洗練されていますね。

あの時代の作品をそのまま模倣したいわけではないんです。自分なりに嚙み砕いて消化したうえで、現代ならではの表現と融合させる。私なりの解釈ですが、それが「ネオレトロ」なのかなと。

私自身、昭和~平成に対するワクワク感や憧れをうまく言語化できていないところがあって、「この気持ちはどこから来るんだろう」と、そんなことを思いながら日々イラストを描いています。

『奇面組』『スレイヤーズ』…レトロ作品に圧倒された

――Twitterでは『3年奇面組』『無責任艦長タイラー』など、昭和~平成初期作品のファンアートも多数発表していますね。当時のマンガ、アニメのどんなところに魅力を感じていらっしゃいますか。

「観ているだけでワクワクするもの」や「自分にはないキラキラしたもの」がたくさん詰まっていて、理屈抜きに楽しめるところでしょうか。
『美少女戦士セーラームーン』CLAMP作品は子供のころから大好きだったんですが、ある程度成長してから改めて当時の作品に触れたとき、純粋に「美しいな」とか「かわいいな」と思ったんです。それはキャラクターの造形だけではなくて、世界観や色使いも含めて。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――大人になってから触れた作品も多数あるとのことですが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

大学生のころに昔のアニメのOP(オープニング)、ED(エンディング)を観る機会があって、そこで『無責任艦長タイラー』『幽☆遊☆白書』などを知り、なんて魅力的な絵なんだろうと。そのころはサブスクもなかったので、レンタルショップで片っ端からDVDを借りて……すっかりハマってしまいました(笑)。

――特に影響を受けた作品を教えていただけますか。

子供のころ特に好んで観ていたのは『ドラえもん』の劇場版シリーズです。「のび太の魔界大冒険」「のび太の大魔境」などをずーっとループしたり。夢や希望、未来感覚にあふれた藤子・F・不二雄先生の世界が大好きでした。A先生の作品は当時はまだ理解できず、大人になってからようやくその苦味や凄みを知って、圧倒されましたね。

中学生になると、新沢基栄先生の『奇面組』シリーズにどハマりしました。ちょうどコミックスの文庫版が発売されたり、アニメの再放送がはじまったタイミングで、「なんだ、この面白い作品は!」と。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――『奇面組』は個性的なキャラが多く楽しい作品でした。陽子さんのお気に入りキャラを教えていただけますか。

御女組の天野邪子ちゃんとか、番組の似蛭田妖くんがお気に入りです。なぜかヤンキーキャラが好きだったんですね。でも、やっぱり一番は一堂零くんかな。笑われてもいいじゃないか、恥なんかじゃないという生き方が堂々としてカッコ良くて。中学生だった私にすごく刺さったんです。

――新沢先生の絵はかわいらしいですよね。

『奇面組』は年賀状に描いたりして、たくさん模写しましたね。当時の連載は「週刊少年ジャンプ」でしたが、新沢先生の絵の根源には少女マンガのタッチがあるような気がしています。手足がシュッと長くて、より女性読者に好まれそうな。鳥山明先生の少年マンガらしいデフォルメ感とはまた違う魅力があって、すてきな絵柄だなあと思います。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――陽子さんの絵柄も、少女マンガの華麗さを受け継いでいる印象があります。

女の子向けの作品も好きですね。ちょうどそのころ『スレイヤーズ』『セーラームーン』の再放送もはじまって、ものごころついてから改めて観なおしても、やっぱり面白い。武内直子先生の水彩画もよく模写しました。配色の美しさもそうですが、袖まわりの透け素材の表現がすてきで、すごく憧れました。

――『セーラームーン』はコスチュームや小物類のデザインもすてきでした。

可愛らしさと強さを兼ね備えたデザインだと思います。特にネプチューンやプルートたちのアイテムは、女子が思わずときめいちゃうような魅力があるんですよね。武器らしい刺々しさとか、いかつさはないのに、ちゃんとカッコよく見えるところとか。

原点はガラス絵とステンドグラスと“セル画”

――マンガ・アニメに触れてこられたのは、ご家族の影響もあったのでしょうか。

子供のころはマンガ、アニメに触れる機会は特に多くはなかったかと思います。ただ父が昔の時代劇や西部劇、それと『トムとジェリー』が好きで。私も横でよく観ていたので、今にして思うとレトロなものを楽しむ土壌はすでにできつつあったのかなと思います。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――では、イラストを描きはじめたきっかけはなんでしょうか。

祖母が趣味でガラス絵をやっていたので、その影響はあると思います。セル画と一緒で、ガラス板の裏から絵付けをするというものでした。私も遊びでドラえもんの絵を描かせてもらったりしましたね。小さな子供のラクガキですが、それでも祖母は私の作品をほめてくれて、とても嬉しかった覚えがあります。

――ガラス絵ですか。たしかに陽子さんのイラストには、ガラスを思わせる透き通った輝きがありますね。

父がステンドグラスを作っていたこともあって、宝石とは違うガラスならではのキラキラ感が好きですし、自分の絵柄にも合っているのかなと思います。

私は昭和~平成アニメのセル画表現が好きなのですが、なぜこんなに惹かれるのか、その理由を考えたとき、やっぱりガラス絵やステンドグラスの影響があったんじゃないかと。とはいっても、そう自覚したのはこの数年のことですが(笑)。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――セル画がお好きとのことですが、アニメーターさんからも影響を受けていらっしゃいますか。

いのまたむつみさん高田明美さんをはじめ、アニメーターさんの影響は絶大だと思います。アニメの原画が鉛筆で描かれていると知ったときは、「本当にこれ鉛筆なの!?」とすごくビックリしましたね。
なぜこんなにスッと美しい線が引けるのか、自分なりに練習したりもしましたが、いまだにその境地には至っていないです(笑)。

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続く【後編】では陽子さんのイラストが放つ透明感の理由を技術面から紐解きます。また、初の個展「2999」へのテーマやメッセージなども伺います。

■後編はこちら!
・80~90年代アニメのポイントは髪型にある?気鋭イラストレーターが描く“懐かしさと新しさ”のコツ【後編】
https://numan.tokyo/interview/W3I1r

(執筆:合田夏子)

個展「2999」情報

個展「2999」
開催期間:2023年5月2日(火)〜14日(日)
会場:OZ studio渋谷
陽子公式Twitter:@hrn_yc

●クラウドファンディング情報:
https://camp-fire.jp/projects/view/646653?utm_campaign=cp_po_share_c_msg_mypage_projects_show

●CAMPFIRE公式サイト:
URL:https://camp-fire.jp

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numan編集部

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