80~90年代アニメのポイントは髪型にある?気鋭イラストレーターが描く“懐かしさと新しさ”のコツ【後編】

昭和から平成初期の文化を現代のセンスで捉え直した「ネオレトロ」が、じわじわとブームになっています。その旗手として今大注目の気鋭イラストレーター・陽子さんにインタビュー。その創作の秘密に前後編で迫ります!

【後編】の本記事では、陽子さんのイラストが放つ透明感の理由を技術面から紐解きます。また、初の個展「2999」開催への想いとは?

■前編はこちら!
・「昭和・平成アニメにはワクワク感がある」気鋭イラストレーターが“レトロ”に惹かれたワケ
https://numan.tokyo/interview/4GvsH
イラストレーター陽子さんイラスト

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昭和・平成レトロのポイントは髪型?懐かしさと新しさのバランス

――インタビュー後編では、主に技術面についておうかがいしたいと思います。「ネオレトロ」イラストを描くにあたり、おさえておくべきポイントがありましたら教えください。

作品によって異なるのですが、目の位置はやや下で、顔のパーツが中心に寄っている……といった傾向はあるように思います。とはいっても、こうしたバランスは腕に染みついてしまっているので、描く際に意識することはほとんどないですね。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――『リコリスコイル』『ヒプノシスマイク』など、現代作品のファンアートもSNS上で発表されていますね。最近の作品をネオレトロ調に昇華する際、意識していることを教えてください。

髪型とその表現は、特に年代が出やすいポイントだと思います。最近の作品は髪型がリアル寄りなんですが、80~90年代の作品は実際には作れない、または作りにくい髪型をしていることが多いんです。

この違いを頭に置きつつ、髪をどう表現するかは意識しています。たとえば「ハイライトをどう入れるか」とか、「現代の技術でセル画では出せない色でどう塗るか」などですね。

――TVアニメ『うる星やつら』のグッズも手掛けていらっしゃいますね。

『うる星やつら』は再アニメ化されたことで、若いファン層も獲得した作品ですよね。なので80年代に『うる星やつら』を観ていた方にも、最近ファンになった方にも、双方に喜んでいただけるグッズになるように。新しさと懐かしさのバランスを考えながら描きました。

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――その絶妙なバランス感覚は、どのように養われたのでしょうか。

うーん、わからないです(笑)。ただ『うる星やつら』は原作も旧作アニメも大好きで、よく模写をしていたので、身体に染みついているのかも知れません。

――昭和~平成作品と近年の作品、違いはどんなところにあるとお考えですか。

これもなかなか言語化が難しくて、私も長いこと考え続けていますが、いまだに答えを出せずにいるんです。明確な違いがあるのは肌感覚で感じ取れるのですが、それが一体なんなのかが分からずにいます……。

CLIP STUDIOを主に使用。描き味は紙が一番好き

――ここからは技術面を深く伺いたいと思います。最初に、ご愛用のソフトや画材を教えていただけますか。

基本的にはCLIP STUDIOのみで、たまにiPad Procreateを使用しています。特にCLIP STUDIOはバケツツール(塗りつぶし機能)に特化したところがあって、重宝していますね。ただ描き味はやっぱり紙が一番好きで、以前は紙に描いた線画をスキャンして色を塗っていました。

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――アナログの画材もお使いでしょうか。

アナログではアクリルガッシュを愛用しています。昔、「色彩王国」というイラストテクニック専門の雑誌がありまして、そこに掲載されていた作家さん方の影響ですね。私は水彩やカラーインクのような繊細な画材は向かないらしく、色を重ねて深みを出せるアクリルガッシュのほうが扱いやすいです。

構図・配色・瞳の表現。実は抑えた色味を使っている

――陽子さんの作品は、「構図」「配色」「瞳の表現」が特に印象的ですね。構図についておうかがいしたいのですが、キャラの顔を大胆に配置して観るべきポイントを絞ったりと、とてもテクニカルな印象を受けます。

構図については特に深く考えることなく、わりと気軽に決めることが多いですね。ひとつ心がけていることは、自分が観て「いいな」と思うものをポイントとして入れることです。髪まわりの装飾をしっかり描きたいなとか、モチーフに使っているガラスをキラキラ輝かせたいな……とか。

感覚に従って決めているという感じですが、学生のころ、これはと思う作品をたくさん模写したので、そのとき影響を与えてくださった大勢の作家さんの技術に助けられているのだと思います。

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――次に、配色についておうかがいします。陽子さんの作品は鮮やかな色を巧みに配色し、独特の透明感を表現していらっしゃいますね。カラー選択のコツや心がけていることをお聞かせください。

カラー選択の土台はセルアニメにあるのでパッと見は鮮やかに見えるかと思うのですが、実は彩度、明度ともちょっと抑えた色味を選んでいます。学生のころ、セルアニメの配色をデジタルで再現するにはどうしたらいいのかと思い、お絵描きソフトのスポイトツールを使って自分なりに研究したら、実は彩度、明度とも低めなことを発見して「なるほど~」と。

あとは作品全体を俯瞰してみて、「なんか違う」と感じたらその都度手を入れる感じでしょうか。

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――当時のアニメ雑誌なども参考にされるのですか。

「アニメージュ」などが好きで、たくさん持っています。昭和~平成はアニメムックや設定集もよく出版された時代で、当時のものを見かけるとつい買ってしまいますね。
お気に入りは『ファイブスター物語』の設定集で、デザインの繊細さ、カッコ良さに圧倒されます。

――最後に「瞳の表現」についておうかがいします。透き通るような輝きが印象的ですが、瞳を描くにあたり気をつけている点がありましたらお聞かせください。

美しく描くことはもちろんですが、瞳はそのキャラの性格が強く現われるパーツだと思うので、内面にふさわしい表現ができているか。そこはつねに意識しています。
大事なパーツなのでアナログだったら緊張しながら描くところですが、デジタルはやり直しがきくので、むしろ楽しい作業ですね。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――陽子さんが描く瞳はハイライトが美しいですね。

大き目のハイライトが好きなので、ひとつドンと入れるようにしています。ただ目を大きく描いているぶん、瞳の主張が強すぎてもバランスが悪いので、色味で調整することもあります。

1000年後に生きる少女たち――個展「2999」への想い

――さて、SNSにて初の個展「2999」開催が発表されました。企画の経緯や意図を教えていただけますか。

友人たちが個展を開いていることもあり、ずっと憧れがありました。会場自体がエネルギーであふれていて、創作意欲を湧き立たせてくれる。個展にはそんなすごい力があるんだなと。

そこでもし自分が個展を開くとして、「私になにができるだろう」とか「どんなテーマ性があるだろう」と考えたとき、「未来」をテーマに据えれば展示としてまとまりのあるものを作れるんじゃないかと感じました。

イラストレーター陽子さんイラスト

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――ネオレトロという「懐かしいもの」をモチーフにしながら、未来を指向されているんですね。

あくまで私の肌感覚なんですが、コロナ禍もあって、先行きに対する不安感や不透明感が続いているなと。でも、今はそんな世の中でも『ドラえもん』みたいな明るい未来もあるかもしれない。それを自分なりの表現で提示してみたかったんです。

――個展テーマ「未来」には、どんな思いがこめられているのでしょうか。

一口に未来といっても。「2999」のタイトル通り「2999年の遠い未来」がテーマです。1000年後の世紀末、そこに生きる女の子たちの姿をイメージして展示作品を描きました。

私たちは20年ほど前に1999年を経験しましたが、ミレニアムに生きるって実はすごいことだなあ……この次の1000年はどんな未来になっているんだろう……そんな思いをきっかけに生まれたテーマです。

――陽子さんは、1000年後はどんな世界になっているとお考えですか。

遠い未来にもきっと良いこと、悪いことがあって、決して理想の世界にはなっていないだろうと思います。でも、どんな世界であれ人間はそこで生きていくのだろうし、藤子・F・不二雄先生が『ドラえもん』で描いたように、明るい明日を願う気持ちや希望があればいいな……と。

そんな思いを私がこれまで描いてきた「少女」というモチーフに託して、さまざまな状況で人生と向き合っている女の子を描いてみることにしました。

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――個展の見どころを教えてください。

2023年5月2日〜14日まで、OZstudio渋谷にて開催する予定です。会場は大きな窓から光が降り注ぐ透明感ある空間で、きっとこの個展でしか得られない体験をしていただけるのではないかなと思います。
一枚一枚のイラストだけでなく、展示空間も含めて、イベントそのものを楽しんでいただけたらうれしいですね。

――現在、クラウドファンディングを募集されています。リターン品のイラストも華やかですてきですね。

現在クラウドファンディングで資金を募っていますが、金額に関わらず開催自体は決定していまして。
引き続き2月27日まで開催中ですので、より素敵な個展にしていくために、宜しければお手伝いいただけると嬉しいです。クラファンはリターン品をお返しできるので、個展企画の一環として楽しんでいただけたらうれしいです。

――個展といえば、グッズ販売も楽しみです。

グッズは図録以外、まだ具体的には決まっていないんです。ただ私自身セルアニメの影響を大きく受けているので、セル画をイメージしたアクリル素材のグッズを作りたいなと思っています。

デジタルイラストに捉われない活動へ

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――今後のチャレンジについておうかがいします。描いてみたい絵や、挑戦してみたいお仕事などがありましたらお聞かせください。

ひとつは、胸がワクワクするような絵を描き続けていくこと。そして今回、初の個展を開催するにあたって、デジタルイラストの範疇を超えたところで作品を昇華させること。このふたつが当面の目標ですね。
デジタル媒体に捉われない、新たな表現を模索する中できっと、これまでになかった気づきや楽しみが発見できるのではないかなと思っています。

――最後に、numan読者へメッセージをお願いいたします。

まず、ここまでお読みくださってありがとうございます。作品を観てくださる方の心のどこかに残るような、そんな作品を描いていけたらなと思っていますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

個展もクラファンもはじめてのことで手探りの部分もありますが、みんなで面白いことを共有したいという思いで準備を進めています。よろしければぜひ、渋谷へお運びください!

――ありがとうございました!

■前編はこちら!
・「昭和・平成アニメにはワクワク感がある」気鋭イラストレーターが“レトロ”に惹かれたワケ
https://numan.tokyo/interview/4GvsH
(執筆:合田夏子)

個展「2999」情報

個展「2999」
開催期間:2023年5月2日(火)〜14日(日)
会場:OZ studio渋谷
陽子公式Twitter:@hrn_yc

●クラウドファンディング情報
https://camp-fire.jp/projects/view/646653?utm_campaign=cp_po_share_c_msg_mypage_projects_show

●CAMPFIRE
URL:https://camp-fire.jp

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numan編集部

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