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【第1回】画業50周年!マンガ家・竹宮惠子先生インタビュー~“自分が今一番興味あることに忠実に”~(1/3)

竹宮惠子先生

竹宮惠子先生

1950年徳島県生まれ。1967年『COM』(虫プロ商事)に『ここのつの友情』を投稿し、月例新人賞に佳作入選。1968年、『週刊マーガレット』(集英社)の新人賞に佳作入選した『リンゴの罪』でデビュー。代表作『風と木の詩』、『地球へ...』で小学館漫画賞受賞、両作品は共にアニメ化されている。また、少女マンガだけでなく少年マンガや企業マンガなど様々なジャンルで活躍。文章では理解しにくい情報をマンガで描く”機能マンガ”や、後世に伝えるために史料性の高い極めて原画に近い複製を制作するプロジェクト”原画ダッシュ”の活動などを行っている。2014年紫綬褒章受章。内閣官房知的財産戦略本部員(3期目)、中央教育審議会委員(1期)、などを歴任。(京都精華大学HPよりhttp://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/faculty/takemiya-keiko/

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“好奇心に従う”ことは変わらない

──画業50周年おめでとうございます! これまでの軌跡を振り返って、デビュー当時と今の自分の中で変わったこと、または変わっていないことはありますか?

竹宮惠子(以下、竹宮) “好奇心に従う”、ということは変わってないかな。
マンガを描くという仕事は、自分が今一番興味あることを発信したいという気持ちに忠実でないと、いいものができないので、そこをすごく素直にやってきたと思います。
それは新人の時から同じで、逆に言うと新人の時に興味があったのが『風と木の詩(※1)』の世界だったので、もう本当にどう発信すればいいのか困りました(笑)。

──1970年代には、そもそも”少年愛”を取り扱ったマンガは、日本に存在しなかったですからね。

竹宮 はい、それ以外の作品を作ることはみんな違うと感じてしまっていたんですよね。
なので、(『風と木の詩』の連載前に)頼まれた仕事や、テレビとのタイアップで描かなくてはならない仕事とか、やりたいことと違うことをやっている自分に、若い時はもうすごくイライラしていました。
新人はそういうものだと頭では理解しているけど、興味あるものに従いたいっていう気持ちがすごく強くて(笑)。自分のしている仕事が、すごく値打ちのないもののような気持ちがしてきてしまうんです。そこが大人じゃないところっていうか(笑)。

──『風と木の詩』の世界観を発信することに対して、恐れはなかったのですか?

竹宮 マンガで表現することに関しては、若い時は勝手なもので、自分が一番と思っているわけです(笑)。恐れ知らずだと思いますね。できないことはないのだから、なんでもやるんだと思っていました。

──では、ご自身でもターニングポイントと感じているのは、この『風と木の詩』でしょうか? 同じく代表作の『地球へ...(※2)』は、いかがでしょう?

竹宮 自分が本当にこれからマンガで身を立てていくんだとはっきり意識できたのも、背負って行けるって思ったのも『風と木の詩』だし『地球へ...』だし、と思っていますね。
それまでの作品は、そこへ少しずつ近づいているけど、私にとっては習作。習作と言ってしまうとファンには申し訳ないのですが、まだまだ自分の思ってるところには到達できていない。みんなそれぞれ、その時の全力ではあったと思いますが。
習作という言い方をすると、むっとする人もいっぱいいるんじゃないかな(笑)。『○○』が好きだったのに~って(笑)。

──代表作と呼ばれる作品と、ご自身の中で”最高傑作”と考える作品は、違いますか?

竹宮 最高傑作が何かって、すごく難しいと思いますけど、傑作というのは、やっぱり作品のバランスがいいものじゃないかな。作品の中に描かれている普遍性がどのくらいあるか、それがその読者にとってどれくらい大事かが、ポイントかなと思うんですね。
だから自分ではわからない部分がいっぱいある。決めるのは読者かなと思っているので、どれが自分の最高傑作、とは自分では言えないと思っています。

(※1)『風と木の詩(ウタ)』……1976年から連載された、竹宮惠子先生の代表作の一つ。当時はタブーとされていた性を真正面から取り上げ、少年愛の世界を描いた本作は、読者にセンセーショナルな衝撃を与えるとともに、熱狂的な人気を博した。1980年小学館漫画賞受賞。
(※2)『地球(テラ)へ...』……1977年から連載された、こちらも竹宮惠子先生の代表作の一つであるSF作品。1980年に劇場版としてアニメ化、さらに2007年にはテレビアニメ化もされた。1978年日本SF大会星雲賞、1980年小学館漫画賞受賞。

教育者への転機──マンガ界のためになることをやる

──2000年に京都精華大学マンガ学科の教授に就任なさいました。人生の大きな転機かと思いますが、どのような気持ちでお引き受けになったのですか?

竹宮 教師という仕事に就くことは、ずっと長い間片側に放っておいた”もう一つの仕事“、みたいな感じなんですよ。高校まで、周りの人から「教師になれ」、「教師になったらいいんじゃない」と、ずっと言われてきて、大学は教育課程に入学しています。
それと、描いた作品がヒットするとか儲かるとはまったく別に、“マンガのために尽くす”ということが、若い時から自分の中で決まっていたんですね。
教師になるという仕事は、”必要と思いながらも、マンガのために投げていた仕事”という意識もあったので、その話が来たときに、「自分が教育者としてやれるとしたら、マンガのことしかない」と、引き受けたのです。
アシスタントを教育してきたこともあり、マンガでなら、教えることができるんじゃないかな、って。

──まさに“天命”だったのでしょうか……?

竹宮 たまたまですよね(笑)。大学にマンガ学科ができるという動きと、私が教授に招かれたというのは。なかなかあることでも、すべての人に訪れるチャンスでもないので、ぜひ試すべきだなって。
ちょうど『天馬の血族』の連載が終わるタイミングだったので、その都合のよさに「ああ、もう行けっていうことね」と思ったのです。
あとは、私にとってマンガを描くことが、描き始めた時点で“読める”もの、になっていたんですね。ストーリーがどんなに長くても、こういう風に展開してこういう風に終わればいい、という全貌が“読めて”しまう。それは熟練ということですが、それってどうかなって思いました。

――どういう意味でしょうか?

竹宮 マンガは、自分でも先行きがわからないようなドキドキ感で描いていくのが楽しいのでは、と思ったのです。
例えば『地球へ...』は、SFのことはまったく知らず、ただファンだというだけで描き始めて、あれこれ調べた挙句になんとか仕上げた作品。
もちろん科学的に可笑しなところもあると思いますが、それよりも言いたいことのほうが大事だったので、それで押し通すという強引な力技でした(笑)。
そういう力技ができることが、マンガには必要なんじゃないかな。
科学的に正しいことよりも、言いたいこと、伝えたいことの方が大事。マンガはそういう力技のためにある媒体だと思っています。
でも、力技ができなくなっているな、熟練というのはそういうことかな、と感じていた時期だったのです。

──なるほど! では、実際学生と接してみていかがでしたか?

竹宮 今の学生たちは、私がマンガ家になった当時と比べると、家庭的、経済的には恵まれていますが、なんというか、“同じ”なんですね。
自分の中身を何とかして出そうともがいている若い人の姿って、私がマンガを描き始めた時と変わらない。学生たちと触れていると、初心に帰れてすごく良かったです。
それこそ、「カケアミ(※1)って、どうやってやるんですか?」って質問されるわけですよ。私カケアミなんてもう何十年もやってないよ(笑)、って思いながら教えていました。

──すごく単価の高そうなカケアミですね。

竹宮 講義では、昔のスランプに陥った時の話をしましたね。成功者にはスランプなんてないだろうと学生は思っているので、経験を伝えて、壁は超えられるとわかってもらいたかった。
学生とは大学の中で一番近いとは思っています。いまは学生のほうが気軽にこられないような立場でもありますが、ともあれ、学内のインタビューなど、学生がやりたいと申し出たことは、どんなことでも受けられる限り引き受けようと思っています。

(※1)カケアミ……マンガ、アナログイラストの技法の1つ。掛け網。升目を直行線で埋めて、角度や線の密度をずらすことで、濃淡やグラデーションを表現できる。

■まとめ

以上、竹宮先生インタビュー第1回をお届けしました。
第2回は2017年1月1日公開の予定です。
マンガ家から教授へ、片側に放っておいたもう一つの仕事に主軸を移し、さらに教授から学長へ──。マンガを教育するとは? 学術の世界で初めてわかったこととは?
竹宮先生のロジカルな話ぶりの裏に見え隠れする、情熱にあふれたトークをぜひお楽しみに!

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numan編集部

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