『ゴールデンカムイ』杉元と尾形が抱える深い“闇”。二人に影響するアシリパの存在とは…

週刊ヤングジャンプで連載中、2020年10月にはアニメ第3期が放送を開始したマンガ『ゴールデンカムイ』(著:野田サトル先生)。舞台は明治時代の北海道、元陸軍“不死身の杉元”とアイヌの少女・アシリパを中心に、金塊をめぐるバトルとアイヌの文化を描いた大人気作品です。

本作はバトルにグルメ、ギャグと多くの要素が楽しめる作品ですが、もう一つファンを惹きつけているのが、キャラクターたちが背負った“闇”。一人一人丁寧にその過去が描かれており、魅力をより深めています。

特に人気なのが、本誌人気投票1位を獲得した“不死身の杉元”こと主人公の杉元佐一(CV.小林親弘さん)と、2位の“孤高の山猫スナイパー”尾形百之助(CV.津田健次郎さん)。当初は敵陣にいた二人ですが、利害関係で共闘したり再び敵になったりという絶妙な関係で「この先、尾形と直接対決するのは杉元か?」 という点も注目されています。

そんな杉元と尾形は、お互い違う種類の“闇”を背負った元軍人。今回は、いずれぶつかるかもしれない二人の闇に焦点をあててみましょう。

※アシリパの正式名称は小さい「リ」

杉元の闇。戦争に行く前の自分には戻れない

杉元佐一は、過酷な戦争を生き抜いたことから“不死身の杉元”と呼ばれ、卑怯なことや裏切りを許さないまっすぐな青年。好奇心旺盛で感情表現豊かですが、敵を前にすると、人が変わったように冷徹に手を下す一面が。
戦場では別人にならないと生き残れなかったため、その思考が抜けていないのです。

杉元が「戦争に行く前の自分と今の自分は違う」と痛感させられたのは、戦争が終わり、幼なじみの梅ちゃんのもとを訪れた時でした。ほぼ盲目の梅ちゃんは、血の臭いのする杉元に「どなた?」と怯えた風に問いかけ……。

「梅ちゃんの知ってる俺は、もうこの世にいないのだろうか」。自分を見失った杉元の姿が胸を打ちます。

そこから繋がる印象的なシーンが、杉元が相棒の少女・アシリパに地元の“干し柿”の話をした時。アシリパが「干し柿を食べたら、戦争に行く前の杉元に戻れるのかな」と呟き――梅ちゃんと、同じく幼なじみの寅次と干し柿を食べて笑っていた頃を思い出した杉元は、こみあげたように目元を押さえます。
アシリパの純粋な言葉に、改めて失われた日々の尊さを実感したのかもしれません。

戦争に行ったことがなく清い心を持ち、自分の知らないアイヌの世界を教えてくれるアシリパとの出会いが、杉元に再び生きる活力を与えたのでしょう。

尾形の闇。自分に“欠けたもの”に苦しめられる

一方、凄腕スナイパーの尾形百之助は、作中でもっとも「しゃれにならない闇深さ」という声も。
その要因は家族にありました。第七師団の元師団長である花沢中将と、その妾であった母親、そして本妻の息子・勇作の存在です。

花沢中将が会いにこないことに心を病み、毎日彼が好きな料理を作っていた母。尾形はそれをやめさせようと鳥を撃ち落としては持ち帰っていましたが、最後は「お葬式に花沢中将が来れば母も会える」と母を手にかけてしまいます。

その後、尾形の心に波風をたてたのが軍で出会った勇作です。尾形は純粋に自分を慕う勇作の性格に、これが両親に祝福されて生まれた子どもなのだと納得。しかも、勇作は戦争で人を殺さない“旗手”という高潔な役割でした。

誰より尾形に向き合った勇作。しかし、戦争で人を殺しても何も思わないと言った尾形を「罪悪感を感じない人間がいて良いはずがない」と抱きしめたとき、それが引き金になったかのように尾形に殺されてしまうのです。
尾形は殺した動機を、勇作が戦死したと聞いたらあなたが自分を想うようになるか確かめたかった、と花沢中将に語ります。

尾形は冗談を言って笑ったり、アシリパの恋心に杉元より気づいていたり、決して感情が皆無のサイボーグのような人間ではありません。
ただ、全く自分を見ない母に何を訴えても無駄なので、悲しみなどの感情を抑える癖がついた可能性はあるでしょう。母を殺したのは、自分ができるのはそれしかなかったから。

また、花沢中将に「愛情のない両親が交わって出来る子どもは、何かが欠けた人間に育つのですかね」と問うたことから、人の持っているものが自分は“欠けている”という自覚がありました。
大人になるにつれ、尾形の心には「罪悪感を感じない自分はおかしい」「他者と感情を共有できない」といった苦痛が育っていったのかもしれません。

今の自分を認めているなら、勇作の発言もスルーして殺したりもしないはず──しかし、自分を全否定する勇作の言葉が見事に突き刺さり、勇作を殺したら罪悪感を感じられるか? 半分は望む気持ちで試したのではないでしょうか。

殺害のタイミングからすると、尾形が花沢中将に語った“花沢中将が自分を想うか確かめたかった”という動機は後付けで、父の愛情を引き出そうとしたという印象も受けます。

二人に影響するアシリパの存在。尾形を殺すのは杉元か?

同じく深い“闇”を抱えている杉元と尾形、2人の鍵となっているのが、アシリパです。
杉元にとって清いアシリパは「自分にもまだ綺麗な心が残っているかもしれない」と感じさせてくれる、いわば“光”のような存在。

一方、尾形も勇作とアシリパを重ねている描写があり特別視していることは確かですが、尾形は勇作と同じように人を殺さないアシリパに「自分を殺せ」と煽りました。
杉元にとって“光”であるアシリパの清らかさは、尾形には勇作の否定の言葉を思い出させるものでもあるのでしょう。

アシリパに“自分を殺してみろ”と促す尾形の心にはアシリパ(=勇作)も自分と同じ人殺しになることで、自分が肯定されるという思いがあったのかもしれません。

しかし、アシリパの清らかさを守るために杉元は容赦しないはず。もし再び尾形がアシリパの清らかさを汚すようなことがあればその時は……。

「元気になって戻ってこい。ぶっ殺してやるから」

逃亡した尾形に向けた杉元の言葉が現実となる日は来るのか、今後に注目です。

(執筆:ナツキ)

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