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『きのう何食べた?』第12話(最終回)2人だけの幸せの形。一緒に食べて生きること【西島秀俊×内野聖陽】

男性カップルの生活を描くよしながふみ先生原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)。

倹約家で几帳面なイケメン弁護士・筧史朗(通称シロさん / 西島秀俊さん)と、人当たりが良くハートがふんわり乙女な美容師・矢吹賢二(通称ケンジ / 内野聖陽さん)という男性カップルの同棲生活あれこれを、ふたりの食事と人々との関わりを軸に描き出します。

ついに迎えた第12話(最終回)。お正月、シロさんはケンジを連れて実家を訪れます。両親との対面を経て、シロさんとケンジのこれからの生活はどう変わっていくのでしょう。2人の未来を予感させる最終話を振り返ります。

「自分が同性愛者だってこと、わかってたと思うんです」

ついにシロさんの実家を訪れることになったお正月、緊張しまくりのケンジは普段めったに着ないスーツにトレンチコートで身を固めていました。シロさんからは「なんか変」と言われますが、ケンジなりに“ちゃんとした”つもり。

ところが、玄関先でシロさんの両親と対面するも、両親はケンジをひと目見て硬直します。スリッパを差し出そうとした父親(田山涼成さん)は、うっかりスリッパ立てごと渡してしまうほど、動揺していました。

食事をし始めても会話は途切れまくり、ついに母親(梶芽衣子さん)はシロさんとその場を逃げ出してしまいました。取り残されたケンジは、父親からシロさんの高校時代のアルバムを見るか、と声をかけられます。

父親から高校時代のシロさんについて「呆れるほど勉強一筋だった」と聞いたケンジは、こんなふうに語りました。

「10代の後半なら史朗さん、もう自分が同性愛者だってことわかってたと思うんです」
「せめていい大学に入って弁護士になれば、親を喜ばせられるって思ったんじゃないかな」
「それが自分にできる一番の親孝行だって」

そのケンジの言葉に、感極まる父親。たしかにいつも思いつめたような顔をしていたけれど、決して親を邪険にするようなことはなかった……と。

はじめて当時のシロさんの心情が理解できたその表情には、シロさんのことを親以上に理解しているケンジへの感謝もにじみ出ているように感じました。そしてケンジもまた、はじめて自分の知らなかったシロさんの過去を知ったはず。

「いい子だったんですね」。ケンジのひとことには、悩みながらも必死で自分にできる最善を尽くしてきたシロさんを想う愛と、それに気づかずともずっと息子を愛してきた父親の背をなでるような温かさが満ちていました。

「長生きしような、俺たち」

その後、ふたたび4人そろって食事をすることに。するとケンジ、大好物の唐揚げを食べた途端に思わず“素”が……。「外サクサクで、お肉やわらか~い❤」

そんなケンジをシロさんはとても穏やかな笑顔で見つめていましたが、ふと見ると母親は完全に無の表情に……! 父親に伴われ、両親は一度そろって食事の席を立ってしまいます。

自分の言い方がまずかったのかと焦るケンジを気遣うシロさん。しかし、しばらくして戻ってきた母親はなぜか満面の笑みになっていました。あまりの態度の急変ぶりに困惑する2人ですが、結局母親は見送るときまで上機嫌。「またぜひいらして」と、ケンジに言うのでした。

帰り道、シロさんから父親と何を話したのかと聞かれたケンジは、「家では史朗が女の格好をしているのか」とたずねられたことを明かします。両親は「男同士」というものがどうしても理解できず、どちらかが女の格好をするものだと思いこんでいる、と。

そしてその誤解を自分が引き受けることで、ケンジは父親を安心させていました。つまり母親が笑顔になったのは、「家で女装しているのはケンジのほう」と父親から聞いたからなのです。すべてが腑に落ちたシロさんは、ケンジに謝りますが……。

「そんなことより俺、夢みたい」
「恋人の実家に遊びに行って親御さんと御飯食べる日が来るなんて」

俺にはそんな日が来るなんて永久にないと思ってた、と声を震わせるケンジ。
「もう……俺ここで死んでもいい」。そう言うと顔を覆って泣きじゃくるケンジに、シロさんは「そんなこと言うもんじゃない」と語りかけます。

「食いもんは、油と糖分控えてさ。薄味にして、腹八分目にして」
「長生きしような、俺たち」

ちゃんと体にいいご飯を作って食べて、ずっと一緒に生きていこう。「一緒に食べること」を軸に「家族のあり方」を描いてきた『何食べ』の真骨頂とも言えるシロさんのセリフです。

かつて「一緒に暮らすパートナーとして正解」と心の中でつぶやいたシロさん。男女の恋愛じゃないからこそ、関係を保つには努力が必要だ、とも言っていました。

そんなシロさんが最終回で「長生きしような、俺たち」とはっきりケンジに伝えたことに、これまでの物語の中で積み上げられてきたシロさんの心境や2人の関係の変化が、ギュッと凝縮されているように感じます。

泣きじゃくるケンジの肩を抱いて歩き出すシロさん。2人の未来は、ちゃんと続いていくんだなあと、ウルウルしながら画面に見入ってしまいました。

「シロさんと一緒にこの店来たかったんだ」

お正月休み、シロさんとケンジはそろっていつものスーパー″中村屋″へ。安売りの低脂肪乳を前に「中村屋最高です! 今年も通わせてもらいます!」とお辞儀するシロさんに「いいお正月だね、シロさん」と笑顔でいうケンジ。1年前からは考えられない2人の姿です。

帰りは、ケンジたっての希望でおしゃれなカフェでお茶をすることに。2人でスコーンを分け合っていると、案の定まわりの視線を集めてしまいました。それに気づき居心地悪そうにするケンジですが、意外にもシロさんは平然としています。

「いっぺんシロさんと一緒にこの店来たかったんだ」

そう言いつつも、シロさんを気遣い、思わず謝ってしまうケンジ。あわてて「ありがとう」と言い直し、どうして付き合ってくれたのかとたずねますが、シロさんは、「いい加減、もういいかなと思って」とだけ答えるのでした。

かつてヨシくんや鉄さんと食事をした店でのシロさんの態度の対比になっているようなこのシーン。感情が顔や態度に出てしまう自分に苛立っていたシロさんが、こんなふうにおだやかに、ケンジの気持ちを尊重しつつ、自分も楽しめるようになったんだなあ……!

「なるべくお前にはハッピーでいてほしいって思ってんだよ」

帰宅後、家計簿を打ち込むシロさんの襟足を整えるケンジ。毛量や白髪の話題になりケンジが思わず苦笑すると、シロさんは「いい年したおっさんだからしょうがない」と言いつつ、カフェでの話の続きをします。

「俺もさ、相方としてはなるべくお前にはハッピーでいてほしいって思ってんだよ」
「だから、お前が嬉しいなら別に全然いいんだって」
「お前が幸せ感じるなら。これからはカフェぐらい何度でも付き合うよ」

そのシロさんの言葉に、ケンジは思わず後ろからシロさんを抱きつきます。「うわっ、お前、ハサミ!」「ん~!だって!」とふざけあい、一度は体を起こすケンジですが……

改めてもう一度、今度は無言で、シロさんを抱きしめます。そして同じく黙ったまま、でも笑顔で、後ろから回されたケンジの腕にしっかりと手を添えるシロさん。2人はさらに手を重ね合い、ただ静かな時間だけが流れる……そこには、2人にとっての幸せの形がしっかりとありました。

2人が暮らす毎日の中で、どのくらいこうした時間があるのかはわかりません。でも確実に「ある」のだと感じさせる後ろ姿。何の音も流れない、午後の日差しだけの明るさがある部屋の中で、黙って抱き合う2人……いつもじゃれ合っている印象が強かったですが、こうして深い愛情を確認しあう時間がないわけがないですよね。

こちらにまで2人の体温が伝わってくるような気がしました。

一緒に食べることは、一緒に生きること

最後の最後は、エンドクレジットが流れる中、並んで料理をする2人。エビの下ごしらえをしながら「エッチッチ~♪」とふざけるケンジに「最低だな(笑)」と笑うシロさん。

ああ、この2人の姿を見られた日々が終わってしまう……という寂しさや余韻も感じさせないほど、2人は楽しげに軽やかに料理をして……。

そして2人で食卓に向かい合い「いただきます」と手を合わせました。

まとめ

一緒に食べることに始まり、一緒に食べることに終わった『きのう何食べた?』。食べることを通して、家族のこと、恋愛のこと、パートナーとの関係、大切な人を大切にする方法……たくさんのことを投げかけてくれたなあと感じます。

ドラマの回を重ねるごとに、ケンジやカヨコさん、小日向さんにジルベールと、出会った人々の影響を受けて、変わっていったシロさん。でもきっと、薄皮をはぐように、ケンジも変わっていたんですね。

ケンジはどこか、自分のほうがシロさんを好きで、もしシロさんに浮気されたら……といつも不安を感じているようなところがあったように感じます。だからいつもケンジは謝っていたんじゃないかなと。

でも、最終回のケンジは「ちゃんと自分はシロさんに愛されている」と、実感できている気がしました。「長生きしよう」と言われ、涙ながらに「そうしよう」と返せるくらいに。「お前に幸せでいてほしい」と言うシロさんを、黙って抱きしめるくらいに。

これからも2人は、一緒にご飯を食べたり、ときどき一緒に作ったり、カフェに行ったりしながら、毎日を一緒に生きていく。絶対にそうだと確信できる、素晴らしい最終回でした。

シロさん、ケンジ、幸せな時間をありがとう。できることなら、また2人の毎日が観たい! いつか、その日が来ると信じて……。

執筆:森本マリ

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●テレビ東京オンデマンド:https://www.tv-tokyo.co.jp/douga/f_programs/999000247
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numan編集部

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