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菊田浩巳(きくた ひろみ)
音響監督(楽音舎)。1990年代より海外映画やドラマの吹き替えに携わり、2000年以降は、キャスティングやスタジオでのディレクションを務める音響監督として最前線で活躍。近年の主な担当作品では、アニメ『おそ松さん』、『ハイキュー!!』、『ボールルームへようこそ』、ゲーム『アンジェリーク』、『金色のコルダ』、『夢色キャスト』など多数を手がける。
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音響監督菊田浩巳さんインタビュー(全4回)
第1回|声優と芝居とアニメとゲームと
第2回|『金色のコルダ』キャスティング秘話
第3回|色と空間のバランス~お芝居は立体と色合い
第4回|キャスティングと設計図
INDEX
――本日はよろしくお願いします。アニメやゲームの”音響監督”の役割は、キャラクターの配役を決定するキャスティングから、スタジオでの演技指導を含めたディレクション、音周りの制作スケジュール管理まで多岐にわたります。まずはキャスティングについて、放送スタート当時話題になった『おそ松さん』(※1)の経緯から教えてください。
菊田浩巳(以下、菊田) 『おそ松さん』は、キャストの華やかさが先だって話題になってしまったところがあり、「今をときめくメンバーを揃えた作品」だと、ちょっと違った捉え方をされてしまったところがあって……。あのメンバーでいくことになった経緯は、そもそもその前の『しろくまカフェ』という作品からの流れで、その時の彼らの演技の凄さと面白さに、ぜひこのメンバーでまた違う作品を見てみたいという純粋な欲求が、製作委員会の皆様に湧いたからなんですね。それが何故『おそ松さん』になったのかは、私はわからないですけれど(笑)。
演者のほうもまた同じメンバーやってみたい、という気持ちが強くあったようでしたね。入野自由さんは、6つ子の並びを考えた時、彼らの中に入ってもいい感じで溶け込んでもらえそうだったのと、『しろくまカフェ』のCDドラマに出ていただいていたからなんですね。末弟感もちゃんとありますしね。
――脇役も豪華な声優陣が出演しています。
菊田 あれは半端なく容赦なかったと思います。有り難いことに『おそ松さん』に出たい、と言ってくださる演者さんが多かったので、スケジュールが合えば喜んで! とお声がけしていたことが多いです。そういう経緯のキャスティングだったので、『おそ松さん』は、演者と製作委員会の情熱がもたらした、幸せな作品だと思いますね。
(※1)『おそ松さん』……赤塚不二夫のギャグマンガ『おそ松くん』を原作に、クズでニートな大人に成長した6つ子の日常を描くTVアニメシリーズ。2015年に第1期が放映され、2018年3月にて2期が放映終了。おそ松:櫻井孝宏、カラ松:中村悠一、チョロ松:神谷浩史、一松:福山潤、十四松:小野大輔、トド松:入野自由、トト子:遠藤綾、というむやみやたらにイケボな配役にも注目が集まりました。
――アニメ制作では、オーディションによってキャストを決めるケースが多いですが、事前に声のイメージを決めて臨んでいるのですか?
菊田 いえ、しないです。私はほぼ白紙です。声優さんはたくさんいますし、基本的に役に合う人を選びたいという気持ちがあるから、フラットな状態でオーディションに臨みます。
――オーディション時に即決するのでしょうか?
菊田 それは時と場合によります。作品にもよるし、声を聞いた瞬間に、この演者だと思う瞬間もありますし。決め方はいろいろあって、こういうふうにして決めますという方程式はないですね。
例えば、キャスティングの打ち合わせでどの役から決めましょうか、となったときに、センターから決める場合もあるし、二番手三番手の役で、絶対この人だよね、と意見が一致したら、その人を中心にキャスティングしていくこともあります。全員の意見が一致して、きれいなバランスであればオーケーですが、必ずしもそうはいかないですから。
――キャスティングの際に、特に気をつけていることは何がありますか?
菊田 メインをどの世代の演者でいきたいのか、という点は最初に確認します。関係各位いろんな思惑や希望がありますから。そして、それを受けて何を一番大事にキャスティングするべきか探ります。キャラクターたちの変化(成長)に即して、それを表現するのに一番ふさわしい世代はどこなのか? という意思疎通を、監督を筆頭に各方面と図り、そして付随してメインを取り巻くキャラクターたちの役回り、立ち位置、影響力など考えてキャストを決めていくことを心がけています。
――トライアンドエラーも多いですか?
菊田 まったく迷わないキャスティングが終わったことはないです。その作品を彼らに託すわけですから、最後の最後まで調整し続けます。あとはスケジュールですね。一緒に収録できないのにそのキャストがいい、と主張をしても仕方がない。
セカンドシーズンなど続きものの場合は、すでにキャストが決まっているのでやむを得ませんが、基本的に私は、作品は同じ現場で同じ空気を吸って一緒作っていくものだと思っているので。
――『ハイキュー!!』のキャスティングは、若手の俳優さんから人気声優まで紛れ込んでいて興味深かったです。何かコンセプトがあったのですか?
菊田 『ハイキュー!!』は、満仲勧監督とプロデューサーと話して、学校毎のカラーというものを相当意識してキャスティングをしました。「こんな感じの学校なら、こういう質の芝居が面白いですね」という具合に……。そしてオーディションをして決めました。
――『ボールルームへようこそ』の土屋神葉さんはほぼ新人でしたが、初主演の座に抜擢されました。こちらもオーディションで決まったキャスティングですよね?
菊田 彼はとても身体能力が高く、ダンスに精通する感覚が飛び抜けていたんです。だから、彼のセリフにはものすごく説得力があって、ウソがなかった。セリフとしての理解じゃなくて、身体が理解してセリフが口から出てくる。身体から出てくるセリフだったんですね。
――主人公の富士田多々良自身もそうですね。
菊田 プロフィールにクラッシックバレエの経験がある、と記載があって、「回れる?」って聞いたら、ハイって返事して、パーンと飛んで、クルーっと回って、スパーンと降りた。全部擬音ですけど(笑)。
それを見て、あ、彼だ、って。もう身体からそのセリフを言っていたから。「多々良いた」、そういう印象でしたね。
――声質によってキャラクターに合う、合わない、というのはありますか?
菊田 ないです。もちろん、柔らかい声質の声優さんが野太い声の人物を演じるというのはないというか、例えば『ハイキュー!!』なら、村瀬歩(日向翔陽役)さんを、間違っても澤村大地(日野聡さんが声を担当)の役にキャスティングしないというのは、絶対にあります。
オーディションとかでも、自分の想定外の役を受けてもらって意外と「へぇ~面白い」って思うことがあるのは、声質とかではなくて、キャラクターの解釈――そのキャラならこういう芝居での表現でもありえると、そのキャラクターの別の可能性に気づかせてもらえた時ですね。芝居で変えられる範疇であれば、「この声だからこの役じゃなければならない」、というのはないと思います。もっとも、今日成人式を迎えましたという20歳に方に、80歳のお爺さんを演じてくださいというような、無茶なことはしません。
――それができる役者の見分け方はありますか?
菊田 そこは割りとカンで、聞いた瞬間に「うん、できるな」、「いや、できないな」となるので、何故そう判断できるのかは、経験じゃないかなと思いますね。
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