【考察3】生きている人間のように生々しい。『おそ松さん』1クール目に見る6つ子のキャラ変

おそ松:“クソ政権”の実態が明らかに!

これまで、6つ子の“基準”として、比較的中立な立ち位置で描かれることが多かった長男・おそ松。2期では、彼自身の“個性”が深く掘り下げられています。

1期14話『風邪ひいた』にて、風邪で寝込む兄弟たちの財布を奪ってパチンコへ出かけていたおそ松。1期で“クソ政権”と称されていたそのフリーダムすぎる振る舞いに、2期ではさらに磨きがかかっています。
6話『イヤミがやって来た』では、温泉旅行へ出かけた両親が置いていったお金を独占しようとし、兄弟から全力で止められます。7話『おそ松とトド松』では、合コン相手の女の子にガンガン下ネタ攻撃を仕掛ける有様。9話『キャンペーン発動!』では、兄弟から借りたものを汚したり壊したりしたうえ、彼らの私物を質に入れようとしていました。

そんなおそ松のメンタリティに迫るセリフも印象的です。
2話『祝・就職!!』では、両親から就職のプレッシャーをかけられたチョロ松が、「長男のお前がちゃんとしねーからそういうのが僕に回ってきてんの!」と怒ると、「俺はそういうのからちゃんと逃げ続けてきたから。ようやく効果が出てきたよね。親が俺に諦めはじめた」と返答。
4話『松造と松代』では、松造に悩みごとがあるのではないかと危惧する兄弟に、「だって考えてもみろよ、父さんが何を悩んでいるかを。9割方その原因が俺たちだよ?」と達観した視点でコメントします。
11話『復讐のチビ太』では、夕方まで眠った後に「よくないなぁ、こんな生活。罪悪感がないわけじゃないんだよね」と独り言を呟いていました。

ニートだからといって現実を見ていないわけでもなく、実は自分たちの状況を冷静に理解しているおそ松。

「言わしてもらうけど、ダメ人間つーのは誰でもなれんの。でもクズは努力が必要だから」(2話『祝・就職!!』より)

というその哲学からもわかるように、現状を踏まえたうえで、クズなニートでいられるために状況をうまくコントロールしていることが見て取れます。

カラ松:ブラザーからの評価が上昇!?

1期では独特なカラ松ワールドを繰り広げ、“イタい”発言をして兄弟からスルーされるのが定番だった次男・カラ松。ところが、2期ではそんな彼のポジションが少し変化したように映ります。

5話の『サマー仮面』では、サマーを満喫できていない“もやしボーイズ”こと他の5人たちに“サマーフラッシュ”を浴びせ、5人から感謝と憧れの眼差しを受けます(おそ松と一松に「誰だ」と言われているように、サマー仮面はカラ松と全くの同一人物として描かれているわけではないようですが……)。『今年こそは』では、サングラスを提供したうえでガールズウォッチングの極意を得意げに伝授し、兄弟たちからまたしても感謝されていました。

極度のナルシストで、変わり者のイメージが色濃かったカラ松ですが、今期ではまじめな常識人っぷりも見せています。
4話『松造と松代』では、夫婦仲が冷めてきたことを妻・松代のせいにする松造に対して、「ちょっと待て。さっきから聞いてれば、なんかまるで母さんだけが悪いみたいになってないか?」と叱咤。おなじみの怪しい英語混じりのカラ松節も、やや控えめな印象です。

一方、10話『カラ松とブラザー』では、頼み事はなんでも聞いてくれる優しい兄のように振る舞っているカラ松が、実は兄弟たちを「殺したい」と感じていたという、かなりヘビーな一面が明らかになりました。
2017年10月13日開催の“アニメフィルムフェスティバル東京2017”にて、製作陣から「今までにない組み合わせ」をフィーチャーすると言われていた2期。3話『チョロ松と一松』、7話『おそ松とトド松』に対し、この『カラ松とブラザー』という回が設けられたのは、1期で彼が兄弟と絡む描写が比較的少なかったからかもしれません。

チョロ松:“常識人”キャラは今いずこ……

1期1クール目では、公式サイトのキャラクター紹介にて「6つ子の中では唯一の常識人なのでツッコミ役になることが多い」と書かれていた三男・チョロ松。ところが、1期2クール目では「6つ子の中では唯一の常識人?」と“?”マークが追加され、2期の紹介文からはついに“常識人”の文字が消されてしまいました。代わりに付け加えられたのは、「まじめそうに見えてそうでもない。自意識が高く、指摘されるとオラつく」という紹介文です。

キャラクター紹介のとおり、2期のチョロ松は少しツッコミどころが多くなっています。
4話『松造と松代』では、6人でまじめな雰囲気で松造を説いていた中、いきなり「そのために童貞に戻ろうよ」とぶっ飛んだ作戦を提示。6話では、貧しさから6つ子に助けを求めるイヤミを「海に捨てようぜ」と提案。9話『キャンペーン発動!』では、大声で感想をまくしたてながら深夜までライトノベルを読んでいた自分のことを棚に上げ、消灯を要求する一松に「本当マイペースだよな、お前って」と言い切り、寒い中ベランダで寝るよう促します。13話『よいお年を』ではイヤミをスノーボードのように乗りこなし、『年賀状』では「就職ができました」という嘘を書いた年賀状を、必死で止めようとする兄弟を無視して投函してしまいました。

まさに「まじめそうに見えてそうでもない」方向へと爆走しているチョロ松。10話『カラ松とブラザー』でトド松から「チョロ松兄さんって、ちゃんとしてるようで結構チンピラだよね」と言われたように、板についたオラつき具合でも視聴者を笑わせてくれました。
『CUT』2018年1月号掲載の脚本家・松原秀さん、カラ松役・中村悠一さん、一松役・福山潤さん、十四松役・小野大輔さんの鼎談では、松原さんが「みなさんがオフで話してる時の関係性を活かせたらなとか、みなさんの感情が乗るようなやり取りとかは入れてます。神谷さんのオラつきとか(笑)」と発言。このオラつきっぷりにはチョロ松役・神谷浩史さん自身の影響もあるのですね。

一松:まじめで神経質な“ドメスティックパリピ”

1期4話『自立しよう』で松代や兄弟から心配されていたように、当初は何をしでかすかわからない危険人物として描かれていた一松。1期13話『事故?』では「超フツー! 闇ゼロ! ノーマル四男!」などとトド松にからかわれていましたが、一方でちょっとアブナイ雰囲気も健在。繊細だったり、突き抜けていたりと振れ幅の広さがミステリアスであり、魅力的でもありました。

3話『チョロ松と一松』では、一松本人がそんな自分のことを"ドメスティックパリピ"と絶妙に表現。世の中を憎みながらも、本当はインスタやスノボなどのリア充文化に憧れていることを暴露しました。

2期のキャラクター紹介で「自分への評価が低い」と新たに書かれたように、2期では一松のナイーブな面も丁寧にフィーチャーされています。
2話『超洗剤』では、心臓がガラスのように脆く、「ワレモノ注意」という注意書きが貼られていることが発覚。9話『キャンペーン発動!』では、電気が明るいと眠ることができず、おそ松たちが提示した“タオルを目に置く”、“自分の腕で目を隠す”、“布団に潜る”などのアイデアに何かと理由をつけて却下する様子にデリケートさが垣間見えました。
この話では、「兄弟であろうともっと気を遣っていこうキャンペーン」と称し、一松による兄弟の監視が行われました。次にシャンプーを使うチョロ松のそばにシャンプーを置くようおそ松に指示したり、兄弟の私物を質に入れるおそ松を止めたりと、他の兄弟への気遣いにも口を出す正義感は、さながら学級委員や風紀委員のよう。ただ、お菓子の包み紙の色や食べる順番まで監視するというかなりの神経質っぷりも披露していました。

十四松:十四松は人間だった!?

1期ではミクロサイズに分裂して兄弟の病気を治したり(14話『風邪ひいた』)、巨頭化したり(15話『面接』)、頭からパチンコ玉を噴出させたり(17話『十四松とヒミツ』)と、人間とは思えない数々の技を繰り出していた五男・十四松。1期17話『十四松』では、チョロ松から「ていうか、人間?」と疑問を持たれるほどでした。

そんな1期に比べると、2期の十四松はより人間らしくなっている印象を受けます。たとえば8話『十四松とイルカ』では、1期にドブ川でバタフライをしていたはずの十四松が“泳げない”という設定に。タイトル画面で映画作品の印である“映倫”のパロディマーク“松倫”が付されているため、日常の世界線とは異なるフィクション作品として作られている可能性が高いですが、従来の十四松とはかなりかけ離れた表現です。また、11話『復讐のチビ太』でも、敵が4人がかりだったとはいえ、人間離れした能力を発揮する間もなくやられてしまいました。

これまで、何を考えているかわからない風に見えることも多かった十四松。今期は自分や兄弟の状況を客観的に理解している表現も多く、2話『祝・就職!!』では、両親が怒っている理由について「働いてないからです! もう二十歳を超えた大人なのに、ずっと無職だからです!」と正解を言い当てます。
10話『カラ松とブラザー』では、カラ松の代わりに誰がみんなの仕事を引き受けるかという話で、「ぼくに頼み事なんかしたら、絶対ロクな結果になんないと思うよ」と自己評価。
13話『栄太郎親子』では、十四松が栄太郎に伝授した奥義“ファイナル屁ラッシュ”に驚いて十四松をボコボコにしてしまった栄太郎母に対し、「気にしないでください。悪いのはぼくですから」とフォローしていました。

とはいえ、人間技とは思えない奇行ももちろん健在しています。
3話『トト子の挑戦』では、照英さんに対抗して身体をマッチョに変形。5話『十四松体操』では、ラジオ体操によって竜巻を起こし、街を破壊。13話『栄太郎親子』では、かくれんぼで地中に隠れたり、鉄棒で高速回転したり、鳥になってスゴ技を披露したりしていました。

トド松:6つ子No.1 !? のバイタリティ

1期1クール目の紹介文では、「甘え上手で、世渡りも上手なので、皆から可愛がられている」と書かれていた末弟・トド松。ところが、1期7話『トド松と5人の悪魔』にはじまり、「可愛がられる」どころか今やいちばんのイジられキャラとなってしまいました。

5話『流刑1〜3』では、女子二人とビーチを楽しむトド松を、他の5人があの手この手で島流しの刑に。7話『おそ松とトド松』では、場を取り繕おうとした苦労も報われず、本音トークで盛り上がるおそ松&女子二人に蚊帳の外に置かれてしまいます。そして13話『戦力外通告2017 —クビを宣告された末っ子—』では、6つ子のメンバーから外され、河川敷での生活を強いられるはめになりました。

一方で、そんな苦難にも負けない鋼のメンタルも遺憾なく発揮。
4話『松造と松代』では、松造を助けることを決めた際、誰にも誉められなかったので、「うん、えらいよトッティ! 素直で可愛い子、トッティ!」と自分で絶賛。7話『おそ松とトド松』でも、「今日のトッティ頑張ったよね! うん、頑張った。いい子! トッティは、トッティが大好きだよ! マジで!? ありがとう! うん、あの……まず声がいいよ!」と自分を励まします。

2話『祝・就職!!』では、他の兄弟のように松代から乳首を切り取られる前に、自ら乳首を千切りました。7話『おそ松とトド松』では、おそ松をフォローするためにチューハイと激辛ハバネロスープを一気飲み。そして13話では、自分を辛い目に遭わせた兄弟へ復讐するためにトレーニングをしていました。
ひどい目に遭いながらも、心折れることなく根性で立ち向かうトド松。立ち振る舞いはキュートですが、6人の中で最も男らしいキャラクターと言っても過言ではないかもしれません。

変化の理由は1期の後の世界だから?

1期から2期の間に発売された『おそ松さん かくれエピソードドラマCD 松野家のなんでもない感じ』について、脚本・松原秀さんは「TVシリーズは一応の完結……というか全滅?(笑)はしていると思いますので、奴らのお話を今回の企画で前に進めるのは微妙かなと。なので隠れエピソードです」(『おそま通信』24号2016年12月6日配信より)と語っていました。つまり、ドラマCDの中で描かれたエピソードは、1期の1〜25話の中の時間軸で起こった出来事だということです。
対して、【考察】“箱”の中で終わりなき物語を繰り返す――『おそ松さん』2期はOPが意味深!? で述べたように、2期は「1期の後の世界」であることがはっきりと意識されています。

これらを踏まえて2期の彼らを見てみると、シリアスな展開で視聴者を戸惑わせた1期24話『手紙』を経たからこその変化をしている部分があるようにも深読みできます。このエピソードは、チョロ松の就職が決定したことで、いつも明るいおそ松の様子が一変し、険悪な雰囲気のまま6つ子がバラバラになってしまうというものでした。
たとえば、1期に比べて、2期ではおそ松とカラ松の立場が少し変わっているように見えます。
1期では18話『逆襲のイヤミ』にて「クソ政権にピリオド」と揶揄する程度で、5人の弟たちの中の一人としておそ松を攻撃していたカラ松。ところが2期の6話『イヤミがやって来た』では、「クズでバカでどうしようもないアホ長男を抱えながら両親のいない数日間を過ごさなくてはならないという危機的状況なのだ」と、カラ松節を忘れておそ松を非難。
この回では、イヤミの振る舞いを見ながら、

おそ松「将来こんな風になるなよカラ松」
カラ松「将来こんな風になるなよおそ松」

カラ松「フッ、こんな風にはなるなよおそ松」
おそ松「なるなよカラ松」

と互いに制し合うやりとりも見られました。
これは、1期24話『手紙』で機嫌を損ね十四松に攻撃したおそ松を、カラ松が殴って制するエピソードを経て、二人の立場が以前よりフェアになったということなのかもしれません。

また、おそ松の発言「ちゃんと反省しないと、いつか一人になっちゃうぞ!」(6話『イヤミがやって来た』)、「(トド松へ)俺、お前とモメることの方が嫌」(7話『おそ松とトド松』という発言も、同様に『手紙』のエピソードを彷彿とさせます。

生きている人間のように生々しい6つ子たちの魅力

脚本・松原秀さんは、2017年11月15日発売の『an・an』のおそ松さん特集のインタビューで、こんな話をしていました。

「知り合いと飲みに行ったとき、『一松ってこういう感じだと思うんだけど、ホントはどんな奴なんですか?』と聞かれたことがあって。そのとき僕の口から、『会ったことないからわかんないよ』って言葉が口をついて出てしまったことがあったんですが、それ言ったあと、すごい恥ずかしくて(笑)。脚本家みたいな作り手が、自分で生み出したキャラを、“一つの独立した人格として語る”っていうのが、苦手だったんですよ。そんなはずなのに、自分も言うとるがなって(笑)」

松原さんは、「僕が知ってるおそ松たちは、テレビに映されている時間の彼らだけで、全部は知らないですからね」と続けています。

2期になって、さまざまに変化したように見える6つ子たち。しかし、その一つひとつの行動は決してこれまでの彼らと矛盾しているわけではなく、「確かに、こういう言動をすることもあるかもしれない」と思わされるものばかりです。つまり、「変化した」というよりは、松原さんが言うように、今まで見えなかった一面が描かれているということなのでしょう。特に、自分の大好きなキャラクターをずっと見つめてきたファンにとっては、「この子はやっぱりこういう子だったんだ」と納得させられる部分もあるのではないでしょうか。

さらに、『CUT』2018年1月号の藤田陽一監督、松原秀さん、キャラクターデザイン浅野直之さんの鼎談では、藤田監督が「キャラクターが型にはまりすぎることのほうがよろしくないと思うんです」とコメントしています。

藤田「言ってることがずっと一貫してる人なんていなくて、二律背反を抱えてて当然だと思っていて。多少幅があるほうが普通の人っぽいかなと思ってるんです。ある程度ベースは必要としつつも、それに縛られすぎると、悪い意味でキャラクターがデフォルメされていくというか」

藤田監督が語るとおり、6つ子のキャラクターは、生きた人間のように生々しく複雑で、さまざまに変化しながら視聴者をドキドキさせてくれます。2クール目で、彼らは果たしてどんな表情を見せてくれるのでしょうか? これからも、6人の活躍が楽しみです!

(執筆:飯塚ゆとり/編集:小日向ハル)

■DATA

おそ松さん
キャスト 櫻井孝宏、中村悠一、神谷浩史、福山潤、小野大輔、入野自由、遠藤綾 他
配信情報 テレビ東京系列 他
監督 藤田陽一
キャラクター
デザイン
浅野直之
原作 『おそ松くん』著:赤塚不二夫
Copyright ©赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会
TVアニメ公式サイト http://osomatsusan.com/

numan編集部

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